人材育成コラム

リレーコラム

2022/08/22 (第149回)

リスキリングやアンラーニングの重要性

ITスキル研究フォーラム DX意識と行動調査 ワーキンググループ 副主査
株式会社ディジタルグロースアカデミア 代表取締役社長

高橋 範光

 人材育成の領域では最近、リスキリングやアンラーニングという言葉が流行っている。特に、DXに対応した人材育成において、リスキリングという言葉をよく耳にする。経済産業省のホームページで公開されている資料では「リスキリング」を次のように定義している。「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」。デジタルだけに関わらず、新しい職業に就くためのスキル習得であるということが分かる。一方「アンラーニング」は、忘れ去ることやこれまでの学びを捨てることではなく、今のスキルや習慣をより良く見直し、修正することであるという定義が多い。

 では、なぜ今「リスキリング」「アンラーニング」なのだろうか。両方に共通していえることは、これまでの経験や学びが通用しなくなったということであり、その理由としては、「新しい職業や新しい価値観を考えられるようにならないといけないほどの外部環境の変化」が起きているからであるといえる。
 
 一方で、既存の多くの組織では、「リスキリング」や「アンラーニング」が進んでいないという指摘も多い。それは「自社/自組織は新しい職業や新しい価値観は不要である」という考え方からくるものであり、これこそ自社や自組織の個別最適に陥っている要因ともいえる考え方である。

 決まった業務をルーチンでこなすようになった組織では、業務もマニュアル化され、OJTで身に付けられるようになるため、極めて効率的に業務が進められる反面、業務そのものに自由度がなく硬直化してしまい、例外的な処理が認められなくなってしまう傾向がある。さらに、効率化した部分を人件費やコスト削減してしまったため、新たに成長する余力になるはずの“新しい学び“もなくなっているのが現状といえよう。総務省の調査では、日本の社会人の学びの時間が1日平均6分しかないともいわれており、「リスキリング」や「アンラーニング」が今になって必要だと声高にいわれるようになった理由とも考える。

 さて、自社や自組織において変化を生み出すためには、硬直化した組織における変化を強制的に生み出すことが重要である。言語習得を例に考えてみると、外部環境に関係なく硬直化した組織というのは日本語だけしか使わない環境が想像できる。この場合、新しい言語を学ぶ必要がなく、学びたいとも思わないだろう。しかし、外部環境に柔軟に合わせ成長していきたいと考える組織では、新たな言語習得が必要となる。

 言語習得の方法は様々だが、だれか一人外国語ができればいいというわけではなく、サービス全体を進出先の国に合わせようと考えるのであれば、関係する人たち全員がその言語をできる方が望ましい。にも関わらず、外部から一人だけ外国語が流暢な人を入れて対応しようとしているのが、DXへの対応の現状といえるのではないか。このような人材が完全に孤立し、「日本のことを分かっていない」「海外は特殊だ」などと言われる状況では、サービス提供に進むはずもない。

 外部人材が活躍するためにも社内での最低限の教育が必要であり、これは希望者だけでなく、できる限り多くの人材ができる方が望ましい結果につながるのは明らかである。デジタルリテラシーの教育というのはまさにこのような言語教育と同じではないだろうか。

 新しい時代の読み書きそろばんと呼ばれる「デジタルリテラシー」の習得に関する体系的な整理を「DXリテラシー標準」として2022年3月に経済産業省が整備した。これは、全てのビジネスパーソンが変革に向けて行動できるようになるために作られたものだ。世の中の変化や人口減少の未来は待ってくれるものではない。「変わる」ために「学ぶ」。この重要性をより多くの人が理解し、実際に学ぶことによって、きっと組織や企業、社会はもっとより良くなるのではないだろうか。


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