人材育成コラム

リレーコラム

2023/07/20 (第160回)

帝王学の教科書「貞観政要」

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 日本史に登場するリーダーたちが読み継いだ書に「貞観政要」がある。昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の源頼朝、北条政子と執権北条氏、そして今年の大河ドラマ主人公の徳川家康が、この書を愛好し治世の参考書としたといわれている。そのほか、歴代天皇もこの書のご進講を受けたようだ。近くは明治天皇である。

 「貞観政要」(じょうがんせいよう )は、中国 唐代に呉兢 が編さんしたとされる太宗の政治に関する言行録である。古来より帝王学の教科書とされてきた。

 題名の「貞観」は太宗の在位の年号で、「政要」は「政治の要諦」をいう。

 「貞観政要」では、賢明な統治者の役割や、法の厳格な執行、公正な処遇、賢臣の登用などが重視されている。これらは現代の政治や統治においても重要な価値観である。公正で透明な政治の実現や、資質に基づく人材登用など、全10巻40篇からなる。現代的に表すと「リーダーの条件」、「人材の登用」、「後継者の育成」の名言集である。低成長の減速時代の現代を生き延びるためには、組織にしても、個人にしても攻めは必要であるが、守りについても強くならなければならない。貞観政要の教えを参考にすることは意義がある。名言をいくつか紹介する。

◆リーダーの条件

  • わが身を正すこと、欲望をおさえて奢侈に走らず万民の手本となるような私生活を送ること、それに臣下の諫言をよく聞きいれる。
  • 治世の上では、人材の登用をはかり、それを適材適所に配する。
  • 長期的な展望の中で、いつも最悪な事態を想定して、それに対する対策を用意しておかなければ、守成の責任をまっとうできない。

◆人材の登用

  • 人材招致の極意。礼をつくして相手に仕え、謹んで教えを受ける。これなら自分より百倍優れた人材が集まる。
  • 人の上に立つ者は、その職にふさわしい人材を登用すべきである。だから人選は慎重に行なわねばならぬ。人選にさいしては慎重にその成績を調査検討して適不適を判断する。
  • 功ある者を賞し、罪ある者を罰する。これが適正に行われれば、功なき者は退き、悪をなす者は跡を絶つ。賞罰はあくまでも慎重に行なわねばならない。

◆後継者の育成

  • 後継者の補導役として、能力、人格ともにすぐれた人物を就ける。同一人物が同じ後継者の下に長く仕えるのは、好ましくない。長く仕えれば、それだけ情が移り、当初には思いもよらぬ野心が芽生える。勤務年限4年が限度である。
  • 曲がりくねった木も、きちんと縄墨をあてさえすれば、まっすぐな木材になる。それと同じように、もともと無道な君主でも、臣下の諫言を聞き入れれば、立派な君主になれる。


 最後に今話題になっているChatGPTに「貞観政要とは」で問いかけてみた。以下はChatGPTの解説である。

貞観政要とは【ChatGPT】

 貞観政要(じょうがんせいよう)は、日本の平安時代に編纂された政治書です。貞観政要は、9世紀後半から10世紀初頭にかけての貞観年間(859年-877年)において、当時の摂関政治を担っていた藤原氏の政治家である藤原伊周(ふじわらのいしゅう)によって編纂されました。
 貞観政要は、政治のあり方や官僚制度、経済政策、教育制度など、当時の政治経済の基本原則や運営方法について解説しています。書名の「貞観」は、当時の天皇であった仁明天皇の元号であり、政治の正しさや善政を重んじる精神を表しています。

 貞観政要は、中国の経典である『周礼』(しゅうれい)や『礼記』(れき)などを参考にしながら、当時の日本の政治状況に合わせた内容が記されています。具体的には、朝廷の役職や官僚制度、租税や財政政策、地方行政、教育制度などが詳細に解説されています。

 貞観政要は、その後の日本の政治書の基礎となり、政治思想や統治の手法に大きな影響を与えました。また、後の時代においても参考とされ、政治や経済の改革を志す人々によって重要な文献とされてきました。

 約1,300年前の書は当時の社会や政治状況に即していたものである。そのため、現代の社会や政治状況に完全に適用することは難しい。しかし、一部の教えや原則は現代でも参考になり、教科書として通用するのは、リーダーの本質はいつの世も変わらないのである。今後、生成AIの時代になりリーダーの本質も変わるのか、生成AIはどう指南するのか、どのようにパラダイムシフトは起こるのか注視したい。

参考文献:
「貞観政要」 呉兢著 守屋洋訳 筑摩書房発行 223ページ



この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム