人材育成コラム

リレーコラム

2023/11/20 (第164回)

人材育成の基盤 学校教育におけるICTの現状

ITスキル研究フォーラム 理事
東京法令出版 取締役 デジタル事業本部長

林 裕司

 この度、理事を拝命いたしました東京法令出版株式会社の林と申します。iSRF通信リレーコラムへの執筆の機会を頂戴いたしましたので、自己紹介を兼ねまして投稿させていただきます。よろしくお願いいたします。

弊社概要と私の職務

 法令出版というだけありまして、国の法律や政令・規則・条例を扱う部門があり、主に警察官や消防職員の皆様にご使用いただく法令集や実務書を発行しています。また、昭和36年からは、中学校・高校の文部科学省検定教科書、教材の発行をし、学校教育関連の事業も行っています。
 私は、入社以来、検定教科書や教材の企画・編集に携わり、現在はデジタル事業部長としてICT関連のシステムやコンテンツの制作・販売、さらには総務部長として人事や労務、経理の仕事もしています。

教育とICT

 コロナ禍によりGIGAスクール構想が3年前倒しで実施され、児童生徒1人に1台のタブレット端末が配付されました。先生が黒板に板書をし、児童生徒がノートに写すといった戦後から大きく変化のなかった一斉授業のスタイルが様変わりしました。「個別最適な学び」の実現のため、ICTを一つの「文房具」として学校教育に導入が進みました。
 私たちが受けていた授業では、よく手を挙げて積極的に発言をする子の意見で授業が進められ、手を挙げないおとなしい子の意見は取り上げられないことがありましたが、今はアプリやグループLINEを活用し、全員の意見が先生に届くようになりました。手を挙げない生徒の方が、グループLINEでは、とても積極的に発言をするという話も聞いたことがあります。
 小学6年生と中学3年生のすべての児童生徒が取り組む「全国学力・学習状況調査」という国が行う悉皆調査があります。この調査も、これまでは紙による調査(Paper Based Testing)で行われていましたが、令和7年度からはGIGA端末を使用したCBT(Computer Based Testing)に移行する予定となっています。このように、学校現場でもICTの活用が進んでいます。

フロントエンドとバックエンド、どちらをDXするか

 教育ICTでの「フロントエンドDX」は、学習者がデジタルで学習する「デジタル教材」になると思います。このように考えると、「バックエンドDX」は、教師が教育に専念できるようにデジタルが支援する「校務支援システム」や「ラーニングアナリティクス」となります。GIGAスクール構想が前倒し実施されたため、「とにかく端末を使わせる」ために、フロントエンドのデジタル教材が現場で導入されました。いわゆるAIドリルがその典型です。導入から3年。反復学習を基本とするAIドリルが、本当に学習効果があるのかということが学校現場から湧き上がってきています。デジタルは学力向上に寄与するのか。どの教師もこの不安は持っています。一方で、現在問題となっている「教員不足」。この問題は、かなり深刻です。2024年度採用の教員志願者が、前年から4.5%、約6000人減ったという報道がありました。教員が足りず、70代後半の方に教壇に立ってもらっているという学校もあります。「教員の働き方改革」に寄与するバックエンドDXの開発・普及が急務となっています。

道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である

 釈迦に説法となってしまいますが、上は二宮尊徳の言葉で、会社経営において利益と理念のバランスが大切であることを示しています。
 学校教育の現場においても、この尊徳の言葉が想起される場面が多々あります。ICTの導入が本来的な意味から外れて、「とにかくタブレットを授業で使わなくてはならない。何としてでもタブレット使用率が低いのを改善したいから相談に乗ってほしい」というご依頼を頂戴することがあります。この時、お役に立ちたいとは考えるのですが、「道徳なき経済は犯罪」という言葉が頭の中をよぎり、児童生徒のため、教員のために本当に必要なことを解決する過程の中で、相談事項にも応えられるようにと提案をしています。また、「公教育=無償」というイメージが強く、適正な利益を確保することが難しい案件もあります。一過性でなく永続的に教育を支えていくためにも、適正な価格設定に対する理解を得られるようにしていかなければなりません。我々が学校教育を支援していく際には、二宮尊徳の言葉を忘れてはならないと考えています。

 末筆ではございますが、皆様にITスキル研究フォーラムの活動にご支援いただけるよう微力ながら尽力してまいりたいと考えておりますので、引き続きのご支援をよろしくお願いいたします。

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