人材育成コラム

リレーコラム

2024/1/22 (第166回)

DX推進スキル標準を考える

ITスキル研究フォーラム 理事
NECソリューションイノベータ デジタル企画本部兼イノベーション推進本部

栗藤 高信

 新年おめでとうございます。
昨年、7月末に理事に就任いたしました、NECソリューションイノベータの栗藤と申します。
iSRF通信への執筆機会をいただきましたので、自己紹介も兼ねて執筆いたします。

 まずは、このたび発生した令和6年能登半島地震によって、被害に遭われた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。一日も早い復旧と、被災された方々が日常生活に戻れるよう、お祈りいたしております。

私のキャリアについて
 1999年に当時の日本電気ソフトウェアに入社し、エンジニアとしてシステム構築業務に従事しました。2007年、全社の人材開発に関する部署への異動をきっかけに、本格的に人材開発業務を開始。技術スキル、ヒューマンスキルの向上や新入社員教育を担当しました。その後、会社の統合や改組に伴って、事業部門側でも人材育成担当者等を経験し、現在は、デジタル事業にかかわる要員の育成と、事業創出に関する要員の育成を担当しております。また、自社以外では、特定非営利活動法人 スキル標準ユーザー協会の理事も務めております。

昨年度を振り返って
 2022年末に公開されたデジタルスキル標準、特にDX推進スキル標準に関して、ITベンダーの方からお問い合わせをいただく機会が多かったと感じています。特に多かったのは大枠下記の3点でした。

(1) どういうものなのか
 DX推進スキル標準をどのように理解すればよいのか、といったお話をいただくことがありました。特に人材類型・ロールについての考え方を問われるケースが多かったと認識しています。DX推進スキル標準では人材類型・ロールの定義が非常に広い範囲にわたって定義されておりますので、まずはそこをご理解いただき、自社にあったロールの定義なのか、異なるのであれば、自社にあったロール定義を行う(大きすぎれば分割、ロールが不足であれば新規に定義など)必要があります。
 また、ロールにひもづくスキルについては、これまでのスキル標準と比べると粒度が大きめの定義に見えます。
 スキルについては、併せて記載されている学習項目例を参考に具体を特定するとともに、過去のスキル標準などを参考に、何を行うスキルであるのかを特定するとよいのではないでしょうか。

 スキル標準と聞くと、そのまま使えるのではないか、示された定義に従わなければならないのではないか、と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、あくまで標準であり参考です。自社の戦略に合わせて手を加えて、うまく使えばよいと考えます。

(2) どうやって活用するのか
 前述の(1)とも関係しますが、このDX推進スキル標準をどう活用すればよいかというお話もよくいただきました。これに関しては、まず社員に対するキャリア目標の提示と育成への活用をお話しさせていただくことが多かったと思います。DX推進スキル標準はそのドキュメント内にも書かれている通り、ITSS+のレベル4相当で記載されています。このレベルは独力での業務遂行と後進育成が可能なレベルということですから、組織としてもエンジニアの方々にとってキャリアの目標の一つにできるのではないでしょうか。残念ながらそれ以下のレベル相当部分についての定義はありませんが、過去のスキル標準などを参照すれば、ある程度、段階を想像することも可能だと思います。また、粒度は大きめではありますが、スキル定義もありますから、体系的な育成カリキュラムへの落とし込みも可能であり、計画的な人材の育成に活用することもできると考えます。

 しかしながらここでも大切なことは、スキル標準うんぬんよりも、その前段だと考えます。
 「これから自社は、こういう方向にかじを切っていくから、こういうロールを担える人材が必要になる。そのために必要なスキルがこれらであるから、積極的に身に付けることが大切である」というストーリーがなければ何も響きません。結局ここでも自社の戦略が起点となるということになります。

(3) ビジネスアーキテクトについて
 人材類型のうち、ビジネスアーキテクトについても話題になることも比較的ありました。
 これまでのスキル標準にはなかった人材類型ですし、テクノロジー領域だけでなく、ビジネスそのものの変革の実現をリードする類型ということで、なじみの少ない方も多かったかもしれません。
 過去のスキル標準の職種は、ITによる課題解決を主眼としていたと認識していますが、ビジネスアーキテクトは上述の通り、デジタルを前提に新たな目的の設定とその実現に責任を持つ役割です。
 デジタルスキル標準本編の補足資料にもありますが、DXを通じて自社、お客様の事業を拡大していくことを担う人材類型ですので、いずれの企業においても、育成や採用を検討してみてもよいのではないでしょうか。

 デジタルスキル標準、DX推進スキル標準は公開されて1年がたちました。
 今後、どのように手を入れていくのか、もしくは手を入れないのか分かりませんが、あくまで標準(=ツール)であって、大切なのはそれを活用する前段の、自社内の戦略・意思決定であることを忘れてはなりません。

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