人材育成コラム

リレーコラム

2018/7/20 (第98回)

「セブ島で異例の新人研修、次代担うIT人材の育て方」の記事を見て

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 6月の中旬、全国の中小IT企業の人材育成検討会に参加した。今回のテーマは「新人の採用活動」についての情報交換であった。例年苦戦している状況は伝わってきていたが今年はより厳しいようである。
 参加企業の志願率が昨年に比べ低下しているなかで、内定辞退率が平均30%と高くなっている。
 内定者ゼロという企業も数社あった。各社地域の優良IT企業である。それぞれの温度差はあるが、インターンシップや社員との交流など採用活動を強化実施している状況での結果である。今後も継続し目標採用数確保に近づけるようであるが苦戦が予想される。

 一方、3月下旬の日経新聞社調査で電機大手企業の2019年春入社の新卒採用計画は各社の計画に差はあるものの12.3%増となっている。

電機大手の2019年度新卒計画(日経新聞調べより)

企業名
採用人数
三菱電機
1,190(1,140)
パナソニック
900(800)
富士通
750(750)
日立製作所
650(650)
東芝
550(220)
ソニー
400(300)
NEC
400(450)

※大学・大学院・高専と高校の卒業合計人数。カッコ内は2018年計画人数

 各社が採用に意欲的なのは、IoT、ビックデータやAIを用いた付加価値の高い製品やサービスが今後の企業成長を左右するため、IT人材が不足、必要だからである。経済産業省は国内のIT人材が2015年時点では約92万人で約17万人不足、2030年には不足人数が拡大し約59万人に達すると試算されている。売り手市場のなか、各社がリクルータを増やしたり、インターンシップ制度を活用したりと囲い込みにつなげる努力をしている。この傾向が数年続くのであろう。

 就活はさておき、先日の日経 xTECH(クロステック)の記事「セブ島で異例の新人研修、次代担うIT人材の育て方」に目が止まった。実施している企業はIT人材事業、ゲーム事業、動画事業、インターネット事業を手掛けるベンチャー企業のギークス株式会社である。
■日経 xTECH「セブ島で異例の新人研修、次代担うIT人材の育て方」
 https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00138/060600084/

 対象者は今年入社の27名、期間は4月1日から3週間。各社が入社式を行うその日、新入社員社員は成田空港にいた。入社式は研修終了後に実施している。研修内容は【午前】現地講師によるマンツーマンの英語研修、【午後】日本人講師によるプログラミング研修、【夕食後】チームビルディングのための課題研修を実施。ミッション「自分たちの学びをクオリティ高く、オリジナリティの溢れるプレゼンをせよ!」を達成するため連日夜遅くまでミーティングを重ねたようである。最終的には、帰国後の全体会議で、全社員に向けプレゼンテーション、それと研修での学びをまとめたWebサイトを公開している。詳細はギークス株式会社のホームページを参照願いたい。

■ギークス株式会社
 https://geechs.com/

 国内では経験できない、凝縮した3週間の目的は、同期としての強固なつながりを形成すること。27名の新卒は、職種が営業職、エンジニア職、ゲームプランナー職、デザイナー職と分かれており、キャラクターも職種ごとに色が異なる。また、選考フローも異なっていたため、研修前にはほとんど接点がない状況だった。
 そんな新入社員に、慣れない異国の地で研修に取り組むという経験を通じて、帰国後の仕事においても互いに助け合い、切磋琢磨できる関係性を築いてほしいという会社の思いから、このセブ島研修が実現した。

 この記事を読み、懐かしく思ったことがある。この記事に紹介されている新入社員海外研修の事例、NECグループ会社の新入社員のインド研修である。2005年より9年間連続して、公募した30名程度の新入社員を1カ月間、インド(前半はチェンナイかバンガロールで英語研修、後半はニューデリーでシステム開発研修)で研修を実施した。小生は最初より当研修の企画・運営に関わっていた。その時の苦労、研修でのトラブルや問題などが脳裏に思い出されたのである。

インド研修の目的は
  • グローバルで活躍するための語学力の習得
  • 高いインドの技術力の習得
  • 社会インフラの後進国で日々発生する問題を主体的に解決し結果をだす、メンタルの強化であった。

 この研修の成果は、上記の目標達成はもとより、その他の面でも新入社員の成長が明らかであった。それはギークス株式会社の研修成果としてレポートされていた。その内容が下記である。
 限りある時間の中で学びや成果を最大限得るためには、どう行動しなければいけないかを常に考えて動くようになった。出来ないことが当たり前ではなく、出来ることを増やしていくために自分で出来ることは精一杯すること。特に事前に準備をする大切さが習慣付けられた。そして一番の成果は新人同士の絆が深まったことである。
 まったく同感である、画一的な新入研修ではなく、異国の地で限られた行動範囲の中で、同じ釜の飯を食い、目標達成のためお互いが主体的に協力する。その経験は社会人としての旅立ちにあたり、最初の貴重な経験になったと思う。経費削減のためにインド研修は廃止を余儀なくされたが、機会があれば復活、新規企画で実施されることを願っている。ギークス株式会社では、次年度もセブ島の新入社員研修は継続されるとのことである。

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