人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2010/01/25  (連載 第8回)

「自ら考える」習慣を身に付ける(2)~ 問題発見と解決のための思考力を鍛える ~

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

前回記事 《「自ら考える」習慣を身に付ける(1) 経験(特に失敗経験)から学ぶ》 はこちら


 読者の皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 昨年は「政権交代」という大きな出来事がありました。2009年の漢字として「新」が選ばれ、世の中が新しくなる(なった)というメッセージが伝わってきました。2008年の漢字が「変」でしたから、私たちは今、正に革命期の真只中にいると言えるでしょう。

 経営学者のドラッカー博士は、晩年に次のように述べています。
 「私たちは既に“産業時代”から“情報・知識時代”を生きている。産業時代 に人類は肉体労働者の生産性を50倍に引き上げた。そして21世紀を生きてい る私たちのなすべきことは知識労働者の生産性を同じように向上させることだ。」
 知識労働者の生産性を50倍引き上げることが、21世紀のミッションだとす れば、ITはその担い手として重要な役割を果たす必要があります。
 ITは知識労働者の生産性を向上するための重要な手段です。しかし、あくまで手段であって 目的ではありません。どのような目的でITを使い、システムを開発し提供するのかが重要で す。ITエンジニアは、その目的を「自分で考える」力が求められます。

 私は、現在「創造的実行プロセス」(*) という問題発見・解決プロセスの開発と普及に取り組んでいます。創造的実行とは、「問題を発見し、ビジョンを持って、目指すべきゴールを定め、ゴールに向かって邁進する」ことと定義しています。
 問題解決と言うと、かつては目に見えている問題(既知の問題)を解決することが主要テーマでした。そこでは問題の原因を究明し、対策案を考える力が求められました。
 しかし時代の変化とともに、問題解決能力には、いち早く問題に気づく、問題発見能力も大切だと言われるようになりました。「問題が発見できれば半分以上は解決したようなものだ」と力説する書物も出ているくらいです。
 問題に気付く力は、人によりかなり違いがあるようです。指示されたことを鵜呑みにして業務を進める人には、「問題」を感じる力が弱いと言えるでしょう。自分の思い、自らあるべき姿を描ける人が、問題を感じる力が強いと言えます。


ポイントは「課題設定力」

 問題を感じる力、発見する能力は確かに重要です。しかし、「問題だ、問題だ」と言うのみで自ら解決しない評論家的な人も周りには沢山います。問題だと指摘するだけでは、何も解決しません。
 あるべき姿を明確に描く(ビジョン設定)、目指すべきゴールを定めることが、変革期の現在に求められる最も重要な能力ではないでしょうか。つまり、「課題設定能力」を鍛えることが新時代を担う人材を育てることにつながると思います。
 そうは言っても価値観は一人ひとり異なり、そのような人の集まりである組織の中で、目指すべきゴールを定め合意形成することは、決して容易ではありません。新政権を見てもその難しさが伝わってきます。

 では、どのように進めたらよいのか ──。
 私の担当する創造的実行プロセス研修は、「課題設定力」の強化を目的とし て、実務の「改善・変革課題の設定」をテーマに2日間の研修を行っています。  研修では、最初に受講者の現在の業務課題を整理してもらいます。最優先で 取り組む課題を確認すると、既に懸案となっている問題の対策案を考えること が最も多く8割近くになります。
 受講者のニーズからすると、案を考え意思決定する手法を学びたいというこ とになるのでしょうが、敢えて研修では、急務の課題の一段あるいは二段上の 抽象的な「課題設定」に取組んでもらいます。

 ひと通り実務の課題を整理すると、受講者には最初に考えていた課題とは異なる課題が見えてくるようになります。
 「私の担当課題だけで進めると部分最適の案を考え、全体最適の案を考えられないところだった。」
 「上位の課題を整理すると、いくつかの課題を一緒に検討した方が効果的だと分かった。」
などの感想が寄せられます。
 問題を見つけるとすぐに「どうやってこの問題を解決するか」と考えがちですが、「課題設定力」を身に付けると、問題の背景や目的をまず考えてから全体最適な解決策を考えられるようになります。

 次回も引き続き、問題発見と解決のための思考力についてお届けしたいと思います。

   *)創造的実行プロセス:B-CEP(ビーセップ)と呼びます
    (詳しくはこちら http://www.b-cep.com/b-ceptop.htm )

(※この記事は2010年1月7日に「iSRF通信」で配信された記事を元にWeb掲載用に編集したものです)


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