人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2010/02/25  (連載 第9回)

「自ら考える」習慣を身に付ける(3)~ 「○○したい」という思いを大切にする ~

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

前回記事 《「自ら考える」習慣を身に付ける(2) 問題発見と解決のための思考力を鍛える》 はこちら


 前回は「課題設定力」を身に付けると、問題の背景や目的をまず考えてから 全体最適な解決策を考えられるようになります--と紹介しました。
 「問題解決」というと論理的な思考やプロセスが重視されますが、問題に対 峙する人の「思い」が何よりも大切です。
 その問題を「自分が中心となって解決しようとする覚悟がある」のか。それ とも「誰かの下で問題解決の支援をしようとする」のか。あるいは「問題は指 摘したので後は上長や関連部署に任せる」のか。こうした解決策によって,そ の取組み姿勢は自ずと異なります。

 数学者の藤原正彦氏は著書「国家の品格」(新潮新書)の中で次のように述 べています。
 「論理には出発点が必要です。(その出発点をAとすると)このAは、論理的 帰結ではなく常に仮説なのです。そして、この仮説を選ぶのは論理ではなく、主 にそれを選ぶ人の情緒なのです。情緒とは、論理以前のその人の総合力(人生で 培ったその人の持っている全て)と言えます。」

問題解決の出発点は各自の“情緒”

 「自らの総合力(情緒)が論理(問題解決)の出発点である」と聞いてみなさ はどう感じるでしょうか?
 機械の故障やトラブルに対する問題解決は、正常値(元)に戻すことが「ある べき姿」。ですから、そこに情緒は必要ありません。一方、仕事の改善や変革と なると「あるべき姿」のイメージが人によって異なります。問題全体を捉えて関 係者も巻き込んで「全体最適」のための課題を設定する人がいれば、直面してい る問題の「部分最適」のための課題を設定しようとする人もいるでしょう。つま り問題に対峙する人の情緒が、取組み姿勢を決めているというのです。

 では,情緒はどのように形成されるのか。藤原氏は次のように述べています。 「その人がどういう親に育てられたか、どのような先生や友達に出会ってきたか、 どのような小説や詩歌を読んで涙を流したか、どのような恋愛、失恋、片想いを 経験してきたか。こういう諸々のことがすべてあわさって、その人の情緒力を形 成し、論理の出発点Aを選ばせているわけです。」

 人生でのすべての経験が情緒力を形成しているとすれば、職場での経験も情緒 力を形成する重要な要素になります。
 誰でも新しい環境に触れると、その環境に順応しようと努力します。順応しよ うとしながらも、いくつかの疑問に出会います。多くは、自分が成長していく過 程で解消できる疑問です。しかし、「大きな改善」につながる疑問も中にはあり ます。

 各自が抱くこの疑問に対して、職場、上長、先輩がどのように対処するかで、 情緒の形成が異なってきます。ポジティブな対応で育てられた人は、「やってみ よう」とする情緒が形成され、困難な問題にも挑戦します。一方、ネガティブな 対応で育てられた人は、「どうせ駄目だ」とする情緒が形成されてしまいます。 改善に取組む際も、直面している問題の「部分最適」なレベルでの改善に終始し ます。

よい“情緒”を形成する職場づくりが重要

 先日、あるIT企業の経営改革推進を担当されている部長のお話を伺いました。 現在、改善提案キャンペーンを展開されているということで、そのパンフレット を拝見しました。
 一見すると、問題解決のプロセスや提案方法が説明されており、QCサークルや 小集団活動のパンフレットのようで、最近下火になってきたボトムアップ活動を 復活させるものに見えました。

 しかし、そのパンフレットには情緒を形成する上で重要な要素がきちんと盛り 込まれていました。
 社員には身近なところから、「思いついたらやってみる」「みなさんのアイデ アで笑顔をたくさん増やしていきましょう」と働きかけています。管理職には、 「一緒になって考え」「一緒に問題に取り組む」姿勢と相談しやすい職場風土を つくることが重要で、まずは改善提案がなされたら「認める」ことからはじめよ うと働きかけていました。

 読者の皆さんの職場は、「○○したい」という一人ひとりの思いを大切にする 職場ですか。
 「やってみよう」という情緒を育てる職場が、「自ら考える」習慣を身に付け るのだと思います。

(※この記事は2010年2月10日に「iSRF通信」で配信された記事を元にWeb掲載用に編集したものです)


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