人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2019/05/20 (連載 第120回)

「美しい調和」のための3つの課題

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 いよいよ令和の時代がスタートしました。
 外務省は新元号の「令和」について、英語で表現する際には「Beautiful Harmony(美しい調和)」という意味が込められていると説明することとしたそうです。
 「令和」=「美しい調和」
 とてもきれいな響きです。
 ただ、「何と何の調和だろう?」と素朴な疑問が浮かび上がりました。

 令和の持つ意味そのものは、安倍首相の説明にあったように
「厳しい寒さの後に見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたいとの思いを込めた」
 この説明で十分かと思います。あえて、「『美しい調和』の調和とは?」を問うことは愚問でしょう。
 今回のコラムでは、その愚問にチャレンジしたいと思います。

 令和の時代に日本が取り組むべき「美しい調和」のための3つの課題
  1. 国と国との調和
  2. 国と企業との調和
  3. 人と人工知能との調和

 平成が始まった1989年、同じ年にベルリンの壁崩壊が起こりました。続いて、ソビエト連邦の崩壊、冷戦の終結へと向かい、世界の経済が資本主義経済・市場経済に統合され、平成の時代は、グローバリゼーションが進行した時代となりました。国際情勢の流れとしては、平成の時代は国と国との調和を目指そうという機運だったといえるでしょう。

 しかしながら、近年はトランプ大統領を筆頭に「自国第一主義」を掲げるリーダーが世界各地で台頭しています。イギリスは、EU離脱を、オランダ、フランスでも移民、難民の受け入れを拒否する極右政党が勢力を拡大するなど、世界は今、自国第一主義とともに反民主主義に向かおうとしているかのようです。
 国と国との調和よりも自国の利益を優先する機運のなかで「令和」の時代が始まりました。

 このようななかで田原総一朗さんは、5月8日の週刊朝日の記事で
「日本は自国第一主義ではやっていけず、世界協調、民主主義、平和主義を掲げている。今こそ国際的な枠組みでの自由貿易、そして国際的民主主義の具体的な戦略を世界に示すべきである。」
と述べています。
 「国と国との調和」を目指して、日本が世界にどのように発信していくか?難しい国際情勢のなかではありますが、幸運なこと2020年にオリンピック、2025年に万博が日本で開催されます。この好機を生かして「調和」のメッセージを発信していきたいものです。

 「国と企業との調和」については、現在どんな課題があるでしょうか。国と国が自由貿易主義から保護主義への流れを見せるなか、企業のグローバル化、多国籍化はどんどん進んでいます。
 「日産は日本の企業?」「ロッテは韓国の企業?」「ヤフーは米国の企業?」「LINEは日本の企業?」
 多国籍企業に、国籍を尋ねること自体に意味がなくなってきたのかもしれません。しかしながら、雇用の問題や税収の問題を考えると「国と企業の関係」は明確にしておく必要があります。
 「国は、自国の雇用に貢献し、しっかりと税金を納めてくれる企業を大事にしたい。」
 「多国籍企業は、国の規制に縛られることなく、必要な人材を適切な賃金で雇い、得た利益は適切な配分と次代への蓄積にしたい。」

 現在、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業への規制をどうするかが、各国の課題として解決策を模索しています。日本では、「プライバシーの保護」「デジタル課税」「公正な競争の確保」の観点から政府が検討を進めています。なかでも課税の問題は、国と国との利害が絡み、国際ルールの確立が急務の課題です。

 来月福岡にて開催される主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でこのテーマ「デジタル課税」が議論されることになっています。
 議論される背景となっているのは、巨大IT企業(GAFAと呼ばれています)【グーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾン(A)】が世界中の利用者から巨額の利益を得ているのに、現行ルールの下では、国内に支店や工場などの拠点がなければ原則法人税を徴収できないため、公平性に欠けているとの課題認識からです。
 2020年までに合意しようと議論がスタートしていますが、欧州は「ネットサービスの利用者数などに応じて各国が課税できるようにする」案を、米国は自国に拠点を置く企業がターゲットになっていることもあり、「多国籍企業が築いてきたブランド力や顧客基盤といった『無形資産』を評価して課税する」案を提案しています。
 利害が衝突するこの課題に議長国としての日本が「美しい調和」をまとめ上げられるかが問われています。
 税の問題に限らず、企業の事業活動が国の垣根を越えて営まれることが当たり前になった現在、「国と企業との調和」のためには各国が協調して国際的なルールを確立することが求められています。が、自国第一主義の機運のなかで企業は各国の動きに振り回されるのかもしれん。

 「人と人工知能との調和」については、本コラムの1月号の「DXジャーニーを楽しもう」で取り上げました。
http://www.isrf.jp/home/column/ando/116_20190121.asp

 令和の時代に「シンギュラリティ」は到来するでしょうか?そのとき、人と人工知能との関係は、どうなっているでしょう?
 イスラエル人の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの著書「ホモ・デウス(テクノロジーとサピエンスの未来)」(河出書房新社刊)の最後に記されている文章が私たちに訴えかけます。
 私たちには未来を本当に予測することはできない。なぜならテクノロジーは決定論的ではないからだ。同一のテクノロジーがまったく異なる種類の社会を創り出すこともあり得る。たとえば、産業革命がもたらした列車や電気、ラジオ、電話といったテクノロジーを使って、共産主義独裁政権とファシスト政権と自由民主主義政権のどれを確立することもできた。(中略)

 AIとバイオテクノロジーの台頭は世界を確実に変容させるだろうが、単一の決定論的な結論が待ち受けているわけではない。本書で概説した筋書きはみな、予言ではなく可能性として捉えるべきだ。こうした可能性のなかに気に入らないものがあるなら、その可能性を実現させないように、ぜひ従来とは違う形で考えて行動してほしい。
 「従来とは違う形で考えて行動してほしい」この言葉が私たちに重く語りかけています。

 「国と国との調和」、「国と企業との調和」、「人と人工知能との調和」
 ひょっとすると、この先の未来に従来とは違う形の「国」の定義ができ、資本主義を代表する株式会社という企業の形態は消滅し、新しい組織の形態が生まれているかもしれません。
 新しい形が「対立と混乱」から生まれるのでなく、「美しい調和」のなかから生み出されるよう、私たちの叡智の発揮が求められる時代がやってきたといえるのではないでしょうか?


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