人材育成コラム
“人財”育成のツボ
2017/08/21 (連載 第99回)
新入社員を職場で指導する人が、知っておきたいポイント
ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治
読者の皆さまの企業でも新入社員の職場指導員を任命し、「仕事を通じて学ぶ」体制を整えていらっしゃると思いますが、ご参考になればと思い、今回のコラムで共有させていただきます。
1. 新入社員職場指導員の心構え「自分が学び、成長する機会」
多くの企業が新人の職場指導員を指名して、職場での実践指導を任せています。
「社員として新しく仲間に加わった友が、新しい環境や文化に溶け込み、組織が目指す目的を理解し、その目標を達成するため『自立して』行動できる社員にできるだけ早く成長してもらいたい」。
その支援を「職場指導員」に託しているわけです。
新人の成長、結果として企業、組織の成長につながる「職場指導員」ですから、「誰を任命するか」が重要なファクターになります。
結果として、あなたが任命された。仕事で力を発揮しているあなただからこそ、「職場指導員」に任命されたということです。
「指導者」として新人と向き合うということは、やがてリーダーとしてチームを束ねる際に最も必要なスキル「人心掌握」を実践することと同じです。一人の新人と向き合いながら、リーダーに必要なスキルに磨きをかける。つまり、あなたのスキルを向上させる実践の機会につながります。
「影響力の法則」の著者アラン・コーエンは言っています。
「人を動かす力は、他者のためになることを常に真剣に考えている人が発揮できる能力である」
言い換えると
「相手と信頼関係を築き、双方にとって良い結果がもたらせるように仕事をする人が人を動かせる」
「職場指導員」として、担当する新入社員との信頼関係の構築を最も重要なミッションと捉え、「共に学び、成長される」ことを期待しています。
2. 育成のポイント
(1) 相手のタイプを理解する
人それぞれに個性があり、価値観も異なります。何に関心があり、どんな価値観を持っているかを理解することが信頼関係構築のはじまりです。
コーチングでも利用されているデビッド・メリルが創始した「ソーシャル・スタイル理論」を理解し、適用することが相手との良い関係を築くことに役立つでしょう。
ソーシャルスタイルには、4つのタイプがあります。ここでは、ポイントのみ紹介します。
- 表出型(プロモーター)
「夢」「未来」「希望」といった言葉を好み、臨機応変に物事に前向きに取り組むタイプ。仕事の夢やビジョンを先輩から聞く、行動や結果に対する称賛を得ることでモチベーションが高まる。 - 友好型(サポーター)
「感謝」「いたわり」「共に」といった言葉を好み、チームの中で協調性を大事にして取り組むタイプ。「何かあったらいつでも相談に乗る」との先輩の言葉が支えとなり担当業務に励むことになる。 - 主導型(コントローラー)
論理的で目標達成志向の強いタイプ。目標が明確だと、その達成に向け自ら工夫して頑張ろうとする。細かな指示よりも、「任せる」方が意欲的にその業務に取り組む傾向がある。 - 分析型(アナライザー)
指示されたことを正確に丁寧に担当し、ミスが少ないタイプ。具体的でやることが明確なことには力を発揮する。一方、リスクのあることにはチャレンジしたがらず、スピードを競うことも好まない。
(2) フェイス・トゥ・フェイス・コミュニケーション
新入社員との信頼関係構築のためには、フェイス・トゥ・フェイス・コミュニケーションが欠かせません。職場指導員の中には、新人と職場が異なるケースもあるようですが、少なくとも1回/週以上はフェイス・トゥ・フェイス・コミュニケーションができるよう上司にも配慮していただくように進言しましょう。
フェイス・トゥ・フェイス・コミュニケーションで重要なことは、「伝える」ことももちろんですが、それ以上に「聴く」ことにウェイトをおきましょう。
アクティブリスニング(積極的傾聴法)の創始者で心理学者のカールロジャースは、「人は、自分の経験が尊重され、理解されていると認識すると、相手を信頼する」と言っています。
新人との信頼関係を築くためには、相手の目を見て、「私はあなたの言うことを理解しようと聴いています」という姿勢を表現することから始めましょう。
この傾聴姿勢は、親しい友人との会話と同じです。「伝えること」、「教えること」の多い新人との会話時間を「話す時間よりも聴く時間のほうが長い」、そんなバランスをとるのは難しいかもしれません。でもチャレンジする価値はあります。「聴く」ことを意識して信頼関係の構築を目指しましょう。
(3) モチベーションを高める
担当する新入社員が、意欲を持って新しい仕事を習得しようと取り組んでくれれば、指導する側のモチベーションも高まります。
モチベーションを高める方法として「ARCS動機づけモデル」があります。
これは、アメリカの教育工学者ジョン・M・ケラー が提唱しました。ケラーは、学習意欲を高める手だてを4つの側面に分けて考えるのが便利だと 定義しました。それは
- 注意(Attention) ≪面白そうだなぁ≫
- 関連性(Relevance) ≪やりがいがありそうだなぁ≫
- 自信(Confidence) ≪やればできそうだなぁ≫
- 満足感(Satisfaction) ≪やってよかったなぁ≫
「仕事のやり方」を淡々と伝えるだけの指導でなく、ARCSのプロセス、リズムで「仕事のやりがい」を伝えることで本人の取り組み姿勢は異なることでしょう。
具体的に紹介したコラム(以下のリンク)がありますので参考にしてください。
» 職場の指導にもARCS動機づけモデルを取り入れる
(4) 仕事の目的と顧客の望んでいることを伝える
新入社員は、担当業務について具体的に学び、組織が求める品質レベルに到達する必要があります。そのため指導者は、「仕事のやり方」を伝えることに時間を費やします。
「やり方」と同時に「その仕事は何のために行うのか?」を伝えることが、自律的に取り組む社員を育成するために欠かせません。
数年前に職場指導員研修を担当した際、ある受講者が、本研修への思いを次のように語ってくれました。
私が新入社員として今の職場に配属されたとき、先輩から言われた一言が強烈に印象に残っています。
「うちの職場では、世界有数の〇〇メーカーの大変重要な部分のソフトウェアを開発している。そのことを自覚して仕事に取り組んでくれ」。
この言葉は、今でも自分の仕事の基本となっていますし、自負となっています。今回、私は職場指導員として指名され、私に大事なことを教えてくれた指導員の役割を今度は「私が指導員となって」新人に伝える役割を持つんだと、大変うれしく思っていますし、責任の大きさも感じています。
ですから、この研修で「指導する」「育成する」ための何かをつかみたいんです。
新人は最初に配属された職場先輩のことはずっと覚えているものです。先輩の一言が、新人に大きな影響を与え、この受講者のように「良い伝承」につながってもいきます。「うちの職場では、世界有数の〇〇メーカーの大変重要な部分のソフトウェアを開発している。そのことを自覚して仕事に取り組んでくれ」。
この言葉は、今でも自分の仕事の基本となっていますし、自負となっています。今回、私は職場指導員として指名され、私に大事なことを教えてくれた指導員の役割を今度は「私が指導員となって」新人に伝える役割を持つんだと、大変うれしく思っていますし、責任の大きさも感じています。
ですから、この研修で「指導する」「育成する」ための何かをつかみたいんです。
「仕事の目的」や「顧客の望んでいること」を伝え、その目的を達成するための仕事であることを理解できれば、新人が業務に取り組む姿勢は、「やり方」だけを伝える場合と比べ異なることは自明でしょう。
(5) 相手の成長に応じて「指示」と「支援」の量を調整する
新入社員には、具体的に手順から最終のOUTPUTまできちんと「指示」して教えることが必要です。その組織が求める品質水準やその組織で遂行する以上知っておかなければならない規格や規則等々、習得してもらわなければならない事項がたくさんあります。身につけておくべきことは、「指示」によって指導することが一般的です。
基本的な事項を身につけたところで、スキルを磨くために、本人が考え自ら取り組む課題を与えます。課題に取り組むにあたって、職場指導員が適切に「支援」することが、新人の成長につながります。
「人を育てる」上で、本人のスキルや取り組み姿勢から、この「指示」と「支援」の量のバランスをとることが重要です。
- 配属して間もないころ 指示の量(大)、支援の量(小)
- 基本を理解した段階 指示の量(大)、支援の量(大)
- 一人立ちし始めたころ 指示の量(小)、支援の量(大)
- 一人前として任せられる 指示の量(小)、支援の量(小)
以上「育成のポイント」について5項目を紹介しました。
人材育成には、これが正解というものはありません。新入社員に個性があるように指導者であるあなたにも個性があります。個性にあった指導スタイルがあります。大事なことは、多様な価値観や個性がある中で職場指導員と担当する新人の間で信頼関係が構築できることでしょう。
まずは、これらを参考にしながら担当する新人と向き合ってください。「向き合う」ことで指導員自身が悩み、試行錯誤しながら工夫したことは、必ず相手に伝わります。不思議なことに多くのことを忘れるのに、入社して初めて出会った職場の指導員のことは「忘れない」ものです。
このとても大事な出会いを大切に、そして「自分の学ぶ機会」として捉えましょう。
