人材育成コラム

リレーコラム

2009/08/12 (第2回)

あなたの会社には「人を育てる“におい”」がありますか

ITスキル研究フォーラム シニアアナリスト

堤 裕次郎

 「人を育てる“におい”」──、とは妙なタイトルですが、「社風」とも「雰囲気」とも異なるので、こう呼んでみました。
 仕事柄、私は数多くのIT企業にITスキル標準や「ITSS-DS」の説明に伺ったり、「相談があるので来て欲しい」と呼んでいただいたりします。訪問する前には、必ず当該企業のWebサイトを拝見します。ほとんどの企業が人の重要性、人材育成の重要性、人への思いやこだわりについて語っており、私としてはある種の期待を抱きます。しかし、実際に話をさせていただくと、決して多くはありませんが、実態と乖離しているケースが見受けられるのです。

社員が成長実感を持てるかがポイント

 お会いするのは経営トップやマネジメントの方々、人事や人材開発の責任者などです。ITスキル標準や「ITSS-DS」について知りたいという依頼ですので、人材育成に対して問題意識は持っていらっしゃるわけですが、色々お話させていただいていると、こんな言葉が出てくる場合があります。
  • 「教育して、ある程度育ったと思ったら、すぐ辞めてしまう。せっかくの教育費が無駄になっている。ほかの会社はどうなのか」
  • 「キャリア制度を導入すべきという風潮があるが、うちの場合、あの職種をやりたい、この職種はいやだと言われると困る。そう都合良く仕事があるわけではないので、何でも対応できる人材を育てたい」
  • 「結局、伸びる人間は勝手に伸びる一方で、何をしても伸びない人も一定の比率で存在する。後者の人まで面倒見きれないので、診断ツールを使って、目に見える形で人材を判別したい」

・・・・いかがでしょうか。必ずしも「後ろ向きでネガティブな意見」とまでは言えませんが、少なくともWebサイトにある「人を大事にする企業」というイメージとはマッチしません。つまり人を育てるということへのこだわりを強く感じられない、言い換えれば人材育成に対する本気度を感じられないのです。
 そうした企業の人材育成への取組み実態はどうかというと、
  • 資格取得に手当や一時金を支給するものの個人まかせの状態
  • OJTという名前の現場まかせの状態
  • 人材育成を経費と見ているため教育内容が年によって変わり、一貫性のない状態
のいずれかに当てはまるケースが多いのが現実です。しかし、これでは社員は自分の成長実感がわいてきませんし、成長を感じなければモチベーションは下がり、そして転職していきます。「仕組みもなければ、思いもない」のと、「仕組みはあるけど、思いがない」のとは違うように思えますが、人を育てようとする真剣さに欠ける点で共通していると筆者は思っています。

真剣に取り組む会社は「におい」が違う

 ここで今回のタイトルに関わる本題です。筆者はどんな会社にも、ある種の「におい」があると考えます。受付を通って応接室や会議室に行く途中の雰囲気なのか、会議室の造作なのか、それとも廊下ですれ違う社員の方々の姿勢や表情なのか。おそらくそれらを総合したものでしょうが、人材育成に真剣に取り組む会社とそうでない会社には、確実に違う”におい”があります。いくらWebサイトでいいことをうたっていても、実際に訪問してみると話をするまでもなくその会社の「人に対する取り組み」が分かってしまう。それは筆者だけではなく、取引先や会社訪問の学生も同じでしょう。

 あなたの会社のにおいはどうか?一度、ぜひ、客観的に自社のにおいをかぎ取ってみてください。


(※このコーナーの記事は2008年9月以降に「iSRF通信」で配信された記事をWeb掲載用に加筆修正したものです)


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