人材育成コラム

リレーコラム

2019/01/21 (第104回)

デジタルトランスフォーメーションに対応した人財育成

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社日立インフォメーションアカデミー 取締役社長&学院長

石川 拓夫

 今年も新年を迎えたが、社会情勢は不安定さを増し、予測不能な事象が続くご時勢となった。また本格的なデジタル社会を迎えて、ここ数年変化に挑戦する年が続いているが、今年も前向きに取り組んでいこうと考えている。

 さて、変化に対応した挑戦ということでは、この場を借りて恐縮だがご報告がある。弊社はIT人財育成を中心としたサービスを日立グループ内外に提供してきたが、来年度から事業統合により生まれ変わる。

 具体的には、経営やビジネススキルを中心とした研修サービスを提供している日立総合経営研修所とOTや日立製品向け技術を中心とした研修サービスを提供している日立製作所 日立総合技術研修所と事業統合し、デジタル技術を活用した 社会イノベーション事業をリードする人財育成を担う新会社に移行する。

 周知の通り、世はデジタルトランスフォーメーションの時代である。日立もデジタル技術と協創により社会イノベーション事業を推進し、社会課題解決を図り、クオリティオブライフの向上をめざして様々な取り組みを行っている。例えばデータサイエンティストを2021年度までに3000名育成を掲げるなど、その取り組みは加速している。

 この推進を人財育成面から支援するためには、日立グループのIT・OT・プロダクトなどの分野や経営職・専門職などの垣根を越えて、今以上にワンストップでスピーディーな人財育成ソリューションの提供が必要となる。この期待に応える ために、日立グループの主要な人財育成機関が一つになり、名実ともに日立グループを代表する人財育成サービス会社として、対応を加速する。

 これは幅広い分野を抱える日立グループの特殊事情もあるが、一つの時代の流れを感じる。今まではそれぞれの業界や分野で事業を考えていればよかったのだが、デジタルトランスフォーメーションの時代は、すべての分野でデジタル技術 を活用し、効率化だけでなく、新しい価値の創造が求められている。ましてIoTによりあらゆるものがつながる時代となり、関わる人が身に付けなくてはならない素養が大きく変化している。

 また一方で、世の中の人財育成施策の役割も変化してきている。従来の新卒から計画的に育成する取り組みも依然として重要だが、それに加えて、デジタルトランスフォーメーションに対応した事業構造改革を人財育成面から支援するなど、事業目標達成のための重要な施策の一つになってきている。それも長期的視点の先行投資的な取り組みに加え、中期計画などを達成するための短期的な成果を求められることにもなってきている。

 IT分野でITの専門家育成を生業の中心としてきた弊社にとっては、IT以外の分野にどのようなITの素養が必要であり、それをどのように提供していくべきなのか、またデジタルトランスフォーメーションの真っただ中で、経営職や専門職の 人にどのようなキャリアパスを提示したらよいのか、などこれからの課題は多い。この事業統合により、人財育成サービスの分野でも、新しい価値を創造することが求められる。これに挑戦するつもりである。

 もちろん、新会社は日立グループ向けだけではなく、これまでの通り日立グループのお客さまにも積極的にサービスを提供していく。従来のIT分野だけでなく、日立で培った経営者育成やOTやプロダクトの分野の人財育成サービスを加え て、より幅広いサービスを提供する可能性が広がる。人財育成の新たな可能性を見いだす旅に踏み出す、そんな1年になりそうである。

 最後にもう一つ、一般論として思うのは、人財もトランスフォーメーションしなくてはならないということである。

 デジタル化の波は、事業構造転換を促し、社会人は人生百年時代に自分らしい生き方を模索すると同時に、自律的な学び直しにより、新しい知識・発想・ノウハウ(例えばデータサイエンス)などを獲得して成果を出すことや、デジタル社 会において必要とされる自分の強み(例えば業務知識など)を自覚して伸ばし生かす必要性が生じてくる。

 企業もこのような状況下で、エンプロイヤメンタビリティを発揮し、従業員に自律的な学び直しやデジタル社会におけるキャリアの棚卸しを促進する有効な取り組みが必要となろう。それは決して特定の企業で起きることではなく、 Society5.0実現の取り組みで語られている通り、国全体で必要とされているものだと思う。

 この個人と企業の意識改革と具体的な取り組みは、労働人口が劇的に減少することが予想され、生産性向上が課題とされているわが国において、年齢やポジションなどに関係なく必要性はますます高まるだろう。

 こんな時勢に新たに船出し、新天地を開拓できれば、これにまさるやりがいはないと思っている。


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