人材育成コラム

リレーコラム

2019/07/22 (第110回)

世界最古の企業トップ3を独占!なぜ日本に長寿企業が多いのか。

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 以前、“企業寿命30年説”が流行になった。これは、昭和59年に日本経済新聞社から発行された「会社の寿命」の中のキーワード“企業の寿命30年の法則”からきている。大企業の調査事例から、企業寿命30年説の正しさの実証的な研究がなされた結果である。

 企業には必ず寿命があり、市場の動向に柔軟かつスピーディーな対応を怠る、一時の成功にあぐらをかき続けることで、そう遠くない将来に衰退し、没落していく。限りある寿命を延ばす最大の方法は働く人材が主体的に“変革”をはかり、新たなるチャレンジと組織活性化をすることである。流行したのは35年前のことであるが、現代でも言えることであり、特に“DX”を推進している現状にあてはまる。

 “企業寿命30年説”の一方、日本には長寿企業数が世界一多いのである。日本という国の独特の文化や風土が影響していると思うが、世界最古の企業の上位を占めている。そのうえ驚くのは業歴100年以上の企業は2万6,144社(帝国データバンク“長寿企業の実態調査”(2013年))ある。最古の創業企業(宗教法人は除く)は、西暦578年(敏達天皇6年)寺社建築工事の(株)金剛組(大阪府)である。同社は飛鳥時代、聖徳太子の命で、四天王寺建立のため百済の国から3人の工匠が日本に招かれ、その中の金剛重光が創業した。その後も四天王寺専属の宮大工として存続してきた。長い歴史の中で紆余曲折があり、現在は大手建設会社のグループ企業として存続している。2番目は“いけばな”の(財)池坊華道会(京都府)西暦587年(用明天皇2年)。甲州西山温泉の旅館(有)西山温泉慶雲館(山梨県)の西暦705年(慶雲2年)と続く。

 なぜ、日本には長寿企業が多いのか。日本人の独特な風土とビジネス観があるのではないか。日本は島国である。異民族の侵入を受ける危険が少なかった。絶えず異民族の侵入にさらされた大陸国家とは異なる。また、温暖で雨が多い気候は米作を可能にし、農耕文化が根付き、狭いわりに変化に富んだ地形でも多くの 人口を養うことができた。日本独特の風土と侵略のない農耕文化が独自に継続されたのである。

 また、日本の独特なビジネス観、長寿企業の多くは単なる金もうけではなく、明確な使命と長期的視点を持っている。とはいえ、数多くのリスクを乗り越え生き残ったのは限られた企業である。明確な使命と長期的視点とは、事業目的は何か、自社の失ってはならない強みは何か、経営者あるいは事業を継ぐ者が心がけ るものは何かなど明確な指針が社是、家憲や家訓で残され、実践され、伝承されているのである。企業によっては後継者のみに口伝や秘伝として伝えるケースもある。“のれんを守る”これが日本のブランドイメージでありビジネス観であると思う。

 最期に、生き残りで重要な要因は顧客志向、従業員を単なる道具ではなく成長する主体と考え育成する人間重視の経営である。企業は顧客の存在があり、顧客の要求を満たすことで利益を得て存続する。利益に目がくらんだり、老舗にあぐらをかいて顧客をおろそかにしたりしがちである。変化を恐れず絶えず革新を目 指す姿勢が大事である。それは、過去の成功体験からの脱皮である。社会の変化、顧客のニーズの変化に合わせて変えていくべきことと、変えてはいけないことを見極め、時として思い切って自らを変えていくことが長寿の秘訣である。進化論のチャールズ・ダーウィンが名言を残しているので、紹介する。“最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのではない、唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である”。


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