人材育成コラム

リレーコラム

2020/03/23 (第118回)

お寺の掲示板から学ぶ人生訓

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 機知とウィットの語録で知られる野村克也氏が先日他界された。人材育成の講師をしていると、人生訓などを披露する場面がある。野村語録は研修の場でもよく使わせていただいた。人生訓といえば、以前より興味があり気になった掲示板がある。それはお寺である。お寺の入り口には大きな掲示板が設置されており。毛筆で標語が掲示されている。毎月更新するお寺が多い。

 格言などが多い標語だが、なかには住職さんが自ら考えた言葉や著名人の格言、人生訓からの引用など、様々な標語がある。難しくて意味が分からない言葉、心に響く言葉や考えさせられるもの、なかにはダジャレの標語などバラエティーにとんでいる。

 案の定、そんなお寺の標語がSNS上で話題になっている。それらSNSの投稿から、公益財団法人仏教伝道協会は「輝け!お寺の掲示板大賞」を毎年、表彰している。2019年の大賞は「衆生は不安よな。阿弥陀動きます。」これは、昨年、吉本問題で松本人志さんにより話題になったツイート「後輩芸人たちは不安よな 松本動きます」をもじったもののようである。衆生の身を案じた阿弥陀仏の様子だそうだ。

 大賞より深く心に残ったのが、仏教伝道協会賞を受賞した。「お釈迦様を嫌いな人もいた。『誰にも嫌われたくない』なんて思わなくていい」、人間関係で悩む多くの人に読んでもらいたい一作だそうだ。そのほか、中外日報賞受賞の、「愚かな愚かな私です。それさえ知らぬ私です」、自分のことは自分が一番知っていると思いがち。でも実は何も分かっていない。自分の愚かさを知れば、他人の気持ちも分かるようになると解説されている。もう一点、仏教タイムス賞の「また失敗 また々失敗 だからなに!」、「失敗は成功のもと」ということわざがあるように、多くの偉人は失敗を糧として、大成した。そこで大切なのがチャレンジ(挑戦)である。チャレンジなしに成功も失敗もない。標語は人類へのエールと受け止めたいとのことである。これらが受賞した主な標語である。2018年の大賞も公開されている興味を持たれたら検索を勧める。また、「お寺の掲示板」(新潮社出版)も出版されている。著者は浄土真宗本願寺派僧侶の江田智昭氏である。本コラムを寄稿するにあたり参考にさせてもらった。

 次にお寺に掲示された有名人の標語を紹介する。

 「死は、いつか来るものではなく、いつでも来るものなの。」(樹木希林)、「知恵がある奴は、知恵を出そう。力のある奴は、力を出そう。金がある奴は、金を出そう。「自分は何も出せないよ」っていう奴は、元気を出せ。」(松山千春)、「人生に大切なのは何回呼吸するかではなく 何度息をのむ瞬間に出会えるかよ」(ビヨンセ)。最後に紹介するのは、「これでいいのだ」(赤塚不二夫『天才バカボン』より))である。これはお釈迦様の姿勢である、「すべてをありのままに受け入れる」悟りの境地につながるような言葉である。

 どの標語もそれぞれの人生観が表現された名言である。意識しないと、気づかない掲示板であるが、興味を持つと自分にとって重要な、人生訓に出会えるかもしれない。

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