人材育成コラム
リレーコラム
2020/09/23 (第124回)
DXはツールで解決可能?
ITスキル研究フォーラム 「DX意識と行動調査ワーキンググループ」副主査
株式会社モルフォAIソリューションズ 取締役 兼 執行役員
神田 武
さて、今回筆者が問いたいのは「デジタル・トランスフォーメーション(以下DX)」という言葉です。「何をいまさら」と思われるかもしれません。本MLの皆様には釈迦に説法ですが、経済産業省による「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」が一つの契機となって2018年頃から広く注目を集めている言葉です。コロナショック後にさらに目にする機会が増えたのではないでしょうか。(筆者のメールボックスには複数のSaaS企業様から「DX」と銘打たれたWebinarの案内が毎日届きます)
ここで疑問に思うのは、DXは特定のツールやノウハウで解決可能なものなのか、またどの企業にも通用する王道があるものなのか、ということです。否。業界や企業ごとにDXの意味も意義も大きく異なるのではないかと考えます。
以下、筆者なりのDXの類型を紹介させていただきます。(類型化にあたっては、「誰が」「何を」「どう変革するか」に着目しました)
類型1:デジタル・ネイティブな企業が、新規参入者として既存の業界を変革する。
(AmazonやNetflixがよく取り上げられますが、日本でもMONOTARO、ZOZO、エムスリーといった2000年以降に設立された企業がインターネットを活用した業界の変革を進めています)
類型2:既存の伝統的な企業がデジタル技術を活用して事業を再定義する。
(コマツが提供するKOMTRAXや、ネスレのネスカフェアンバサダープログラムといった、デジタル技術を活用した事業やビジネスモデルの再定義が挙げられます)
類型3:既存の伝統的な企業がデジタル技術を活用して自社の業務を改善する。
(CRMを活用した顧客接点のデジタル化、RPAによる業務改善、ビデオ会議システムや労務管理ツールを用いたテレワークの推進など、業務でのデジタル技術の活用の可能性はまだまだあります)
(AmazonやNetflixがよく取り上げられますが、日本でもMONOTARO、ZOZO、エムスリーといった2000年以降に設立された企業がインターネットを活用した業界の変革を進めています)
類型2:既存の伝統的な企業がデジタル技術を活用して事業を再定義する。
(コマツが提供するKOMTRAXや、ネスレのネスカフェアンバサダープログラムといった、デジタル技術を活用した事業やビジネスモデルの再定義が挙げられます)
類型3:既存の伝統的な企業がデジタル技術を活用して自社の業務を改善する。
(CRMを活用した顧客接点のデジタル化、RPAによる業務改善、ビデオ会議システムや労務管理ツールを用いたテレワークの推進など、業務でのデジタル技術の活用の可能性はまだまだあります)
こう整理していくと、特定のツールやノウハウで解決策を示せるのはせいぜい類型3に限られるといえないでしょうか。それ以外では、事業そのものの変革が必要になりそうです。加えて企業ごとにスタート地点とゴール地点が異なる以上、変革の道筋にも王道はないのではないでしょうか。現時点では伝統的な企業の取り組みは端緒についたばかりですし、本来はベストプラクティスといえるものも十分にないはずです。
ですので、もしも「わが社はDXの取り組みに成功している」という大企業のお偉方や、「DXのノウハウを伝授します」というコンサルタントがいらっしゃれば、まずは疑った方がいいのではないかと筆者は考えています(笑)
当然、自身もDXを成功させるための解を持っているわけではないのですが、ここで投げ出してしまっては読者の方に失礼になりますので、いくつかヒントになり得る考えをご紹介させていただければと思います。
一つは「目線を上げ、長期思考になる」です。「変革」がゴールとなるわけですから、現在の事業や業務の延長線上ではなく、他業界のビジネスモデルや新しい企業の取り組みに触れ、あるべき姿を構想すること。端的にいえば経営目線になることが重要と考えます。例えば伝統的な事業が多く、傘下に多数の事業会社を持つ総合商社では、中期経営計画での注力領域としてデジタル領域への予算を割り当て、専門の推進組織を構築し、制度改革も同時に進めています。DXを推進するにあたってAIやブロックチェーンといった技術(ツール)の活用は一つの側面にすぎないことが分かります。
もう一つご紹介したいのはピーター・センゲさんという経営学者が提唱した「システム思考」という考えの枠組みです。システム思考とは、現実の複雑性を理解し望ましい変化を起こすために、物事のつながりや全体像を見て、その本質について考えるアプローチです。重要な原則の一つとして、「構造がパターンに影響を与える」ということがあります。繰り返し起こるパターンや、何か大きな流れが観察される時、なんらかの構造がそのパターンを創り出しているということです。「できごと」「パターン」「構造」をさらに掘り下げていくと「メンタルモデル」という、組織内での共通の考えの枠組みが現れます。
大企業のDX推進に携って痛感するのは「できごと」「パターン」のレベルで対応方法を考えても、実際の成果にはつながらないということです。(この段階で「やっている感」を出して成功事例として発信している企業さまは多いのですが、どうも広報の要素が強いですね)筆者はDXに本気で取り組むためには「メンタルモデル」まで踏み込んで施策を考える必要があると考えています。現在、DXと「ジョブ型」などの人事制度の議論が同時に立ち上がっているのも、根本は同じところにあるのではないかと考えます。
最後に「iSRF」の取り組みのご紹介で締めくくりたいと思います。現在実施中の「DX意識と行動調査WG」(» 紹介ページはこちら)において、まさに組織内でのメンタルモデルや行動に関する調査を行っています。時宜を得たものになっていると考えておりますのでぜひ調査結果が出た暁には、ご覧いただければ幸いです。
この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム)