人材育成コラム
リレーコラム
2020/09/16 (第125回)
教育の心配
ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社日立アカデミー 取締役
石川 拓夫
今春から異なる大学に進学した次男、三男は、上半期はいずれもキャンパス立ち入り自粛でオンライン授業だった。立ち上がりは異なり、次男の方は5月連休明けから始まったが、三男の方は大学側の対応がなかなか定まらず、本格的な開始は5月後半からだった。結果7、8月中も断続的に授業が続いた。授業の内容は、録画した映像を聴講する授業や、ダウンロードしたテキストや資料などで自己学習。質問はチャットやメールで受け付けて進める授業が中心だった。インタラクティブなオンライン授業は語学など一部で、それもリテラシーのある先生に限られたようだ。こんな内容だと正規の授業料は高いと不満を持つ学生の気持ちもよく分かる。このままだと大きな問題の一つになりそうである。また成績の評価基準も、筆記による一斉定期テストが中止され、講座ごとの小テストなどの結果によるなど、途中でシラバスの変更があり、スタート時点から曖昧で、2人ともこの点は共通の不安のようだ。
学生同士のコミュニケーションもごくたまにあるグループワーク程度で、悩みを共有するほどの関係には育ちようもない。彼らの情報共有はまだ高校時代のネットワークに頼っている。こんな状態だから、もちろん部やサークル活動への参加はまだだ。新しい仲間と共にキャンパスライフを謳歌するといった状況からは隔絶した大学生活をおくっている。またアルバイトも感染予防の観点から自粛してきた。社会性を養う活動はいろいろな意味でまだ行っていない。
大学進学の目的も中断している。次男は留学の夢があり、これをかなえるために大学を選び、着々と準備してきたが、当然の如く今年度のプログラムはすべて中止となり、目標を失った。いつかはきっと行けるから、語学など準備を怠らないようにと言っているが、コロナ禍収束後だと就活時期に重なる可能性もある。なんともやりきれない。
一方、高校生の四男は、緊急事態宣言終了後しばらくしてから登校再開となった。それまでの約2カ月間はやはり在宅で映像授業だった。私学なので対応は早かったが、ここでもインタラクティブなオンライン授業は一部だった。高校生は大人になり切っていない分だけモチベーションを維持させるのが難しい。映像授業は結局は自己学習。習熟度を測りながらの対面授業には程遠い。想定外の状況に映像授業でも早期に開始してくれた学校側の努力に感謝すべきだろうが、品質の担保と学習効果の検証はこれからだろう。現在は対策を十分行った上で、ほぼ通常に戻っているが、春先の教育の遅れが少し心配である。
このようにコロナ禍において、教育現場では、多くの関係者の多大な努力によって、教育の空白期間を作らないよう尽力いただいたことに感謝すべきと思う。ただ当社のような人財育成サービス会社でも想定外の事態だったように、大学教育や学校教育の現場でも、さまざまな葛藤があったと思う。このままオンライン授業が中心、あるいは併用になる場合、オンラインであるがゆえに、対面授業以上の効果を追求して進化させる取り組みをぜひ期待したい。対面授業とオンライン授業では必要となるノウハウが異なるところが多いと思う。今までのやり方に固執せず、ニューノーマルの教育のあり方はもっと議論をされるべきだと思う。そのためには今こそ産学連携の必要性を認識すべきだろう。
最後に、数年前に学校教育改革のステークホルダーダイアログを行った時に、改革派の先生が「学校教育現場にITが浸透しない根本原因は、先生自身が板書をしたいからだ。板書をすることが教えることだと思っている先生は大変多い」とおっしゃったのを印象深く思い出す。もしそうならば、オンライン授業の時代にITを活用してもっと効果的な取り組みが妥協点として見いだせる気もする。いろいろな取り組みを共有することから、変われる気がする。こんな機会をコロナ禍はくれたと思えば、心が少し前向きになれるのではないだろうか。
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