人材育成コラム

リレーコラム

2011/02/15 (第12回)

可能性を閉ざさない組織経営

ITスキル研究フォーラム 理事
フロネシス経営研究所 主宰/富士ゼロックス総合教育研究所 アドバイザリーフェロー

出馬 幹也

 人々に景気回復の実感なき中で、大企業を中心とする企業グループの業績が回 復傾向にあるという。

 私自身は、本業が人事・組織系の経営コンサルタントであるために、組織を強 く、良い会社にしていきたい、と望むお客さまとの出会いで仕事をさせていただ いている。ただし、その中には業績回復途上にある企業もあるが、そうではなく、 只々厳しさの中で”もがくだけ”の企業もある。

 とりわけ興味を惹かれるのが、同じような与件、条件設定であるにもかかわら ず、経営面で差が開くばかりの企業体を見かけるときだ。
 企業としてのネームバリューも、商品力、サービス力においても大きな差がな く、従業員規模も同等のライバル企業を想定してみてほしい。賢明な読者の皆さ んはおそらくライバル企業の差がつくとすれば、それは何か、ということを予測 されていることだろう。以下に簡単なリストを示す。

仮説(1) ヒットする商品の開発が差を生んだ
 この仮説は正しい。一般的な商品・サービス力ではなく、今の市場に合った形 で価値を提供できたとき、業績が向上していくのは火を見るよりも明らか。だか らこそヒット商品を世に出すことに集中する経営は、正当なる姿勢であり、高い プライオリティであることは間違いない

仮説(2) タイムリーな市場供給が差を生んだ
 新商品がヒットするか否かは、市場が求めているタイミングで、適正な価格と 品質により、的確にデリバリーできたかどうかに大きく左右される。お客さまを お待たせしすぎたり、納入品初期不良が市場からの許容度を超えてしまったりす ることがなく、むしろ柔軟なデリバリーでニーズにお応えできる組織は他との差 別化という点で大きなアドバンテージを有している

 上記(1)(2)に対し、そうではないと否定するも方はおそらくいないであろ う。けれどもまだもう一つ前、(1)(2)の“前提”となる要素にこそ私は着眼 する。

前提要素:全員が助け合う組織が差を生んだ
 社内の各機能が互いに持つ情報を組み合わせ、お客さまに最適な価値を提供し ていくために、早め早めの連携でそれぞれの要求事項(何があればお客さまへの 価値提供を強化できるか)を共有・補完しあい、従来では考えられなかったほど のスピードと品質、コストで市場導入すること。その能力を「チームワーク」と 名付けるならば、それこそが本当の差を生んだ要因なのではないか

 企業組織がヒット商品を生み出しうるのは一人のスーパーマンの力からではな い。着想が得意な人間に負う部分が多いのは「商品企画」フェーズである。むし ろそれを「研究・開発」し、生産技術力で量産・低コスト・高品質での安定供給 の体制を整備する「サプライチェーン」構築のフェーズ、および顧客への直接的 なニーズ明確化から注文受け、出荷配送から、何かの際の品質保証対応体制など の「サービスチェーン」構築のフェーズ、というものを組み合わせなければ、世 にヒット商品が提供されていくことはない。

 では、世の組織で「チームワーク」を高めることに真剣で、そこにこそ経営資 源(人、モノ、金、時間、情報)を投下すべきであるという方針を示し、従業員 の拍手喝采を得ているような企業経営者は、今の日本にどれだけいるというのだ ろうか。「チームワーク」などという”目に見えないこと”にはかかわらない、 ということか。
 “スポーツの世界のたとえ話”をすれば、皆一斉に理解を示すことをなぜ日々 の企業経営の中では“別もの”と捉えることに慣れてしまったのか。

 企業が持つ大きな可能性を引き出す組織には、経営者から従業員一人ひとりま で一貫した「チームワーク」に対する信奉=価値観共有がなされている。お客さ ま志向を徹底しようとする企業は多く存在し、しっかりと差別化を実現し、厳し い環境をものともせず前進を続けている。マガイモノとは違う、「本物の経営」 がそこにある、と私は思う。

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