人材育成コラム

リレーコラム

2021/1/20 (第130回)

コロナ時代の仕事観

ITスキル研究フォーラム 「DX意識と行動調査ワーキンググループ」副主査
株式会社モルフォAIソリューションズ 取締役 兼 執行役員

神田 武

 昨年はコロナ禍に翻弄され続けた一年となりました。新年に入って早々に関東の一都三県で非常事態宣言が発令されるなどまだまだ収束の気配は見えません。コロナ禍がこれまでの政治・経済上の危機と大きく異なるのは、何よりも自然現象との戦いであることが大きいのではないでしょうか。現代において一つの自然現象がここまで全世界的な政治制度、ビジネス環境、人々のライフスタイルに直接的に影響を及ぼしたことはなかったのではないかと思います。

大上段から話を始めてしまいましたが、私として、昨年に感じたことを記します。

■新たなリーダー像の発見


 「自粛期間」が長引くことで夜間の宴会や休日の外出を抑えて家で過ごすことが増えました。それは一部の動画コンテンツの爆発的ヒットにつながりました。その中でも特に私の印象に残ったのは「NIZI Project」と「鬼滅の刃」の2つです。私は、この2つのコンテンツはリーダーシップの観点から非常に興味深いと考えました。

 「NIZI Project」はKPOPの音楽事務所の代表であるJY Park氏が日本人のガールズグループをデビューさせるために志望者を育て選抜するオーディンション番組です。最終的に1万人の応募者の中から、複数回の審査を経て9人のデビューメンバーが選ばれるのですが、この過程で特に新鮮だったのは、競争よりも個々人の成長やチームとしての総合力にフォーカスが当てられていたことです。
 JY Park氏は個々の志望者の長所を最大限に伸ばすための環境作りやコーチングを徹底して行います。また、事務所としてのビジョンや方法論も余すところなく伝えるところが番組の見どころになっています。

 また「鬼滅の刃」の主人公は、これまでの少年アニメの主人公としては異色の存在であるように思います。主人公の炭治郎は一番強いキャラクターではありません。ただ最も優しく我慢強いキャラクターではあります。一緒に闘うメンバーをエンカレッジし、場合によっては敵にも共感を寄せます。いわゆる多くの「戦闘物」とは一線を画していることがこのアニメの魅力ではないかと思います。

 これらの作品は、ゼロサム・ゲームから距離を置き新しい価値を出そうとする際の新たなリーダー像の形を示しているように私は思いました。

■「規律」の再定義


 最近、経営者がインタビューで「取引先の現場では皆が一生懸命働いている中で、コロナ禍において当社は在宅勤務を前提とするようなことはしない」という趣旨の発言をされていました。私も管理職の端くれなので心情的には理解できるところがあります。

 しかし、率直に言って違和感を禁じ得ませんでした。その違和感を解きほぐしていくと、コロナ禍の前後でホワイトワーカーに求められる「規律」の形が明らかに変わった(変わらざるを得なかった)にも関わらず、一部の管理職層は気づいていないか目を背けようとしている。ということではないかと思い当たりました。

 コロナ前の社会人としての規律は「自分が働いている姿が見える環境で働きを示す」ことが前提になっていたのではないか。その前提では「出社して顔を見せること」は一つの価値になり得ます。しかしコロナ後は明らかに前提が変わりました。新たな規律は恐らく「自分の働く姿が見えないことを前提に、共働者に配慮して能動的に役割を果たす」ことだと考えます。本来はこちらの方が、より高い規律が求められるのではないでしょうか。

 こういった働き方の変化は一過性のものではなく、仮に感染が収束した後にも続くものだと考えます。そう考えた時に、新たな環境にいかに順応して価値を出すかは今後の組織のパフォーマンスにも大きく影響を与えていくことになると思います。

 以上、とりとめのない話となってしまいましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。冬場に入ってさらに感染が拡大していますが、どうぞご自愛ください。

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