人材育成コラム

リレーコラム

2021/5/20 (第134回)

みんなのデジタルリテラシー(その後)~我々はデジタル活用の障壁を乗り越えられるか~

ITスキル研究フォーラム DX意識と行動調査 ワーキンググループ 副主査
株式会社ディジタルグロースアカデミア 代表取締役社長 兼 株式会社チェンジ 執行役員

高橋 範光

 約2年半前の2018年10月、この人材育成コラムで「みんなのデジタルリテラシー~デジタルスキルのLearn & Update~」と題して、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の本格に向けたデジタルを「利用する側」のデジタルリテラシー教育の必要性について語った。

参 考 » みんなのデジタルリテラシー ~デジタルスキルのLearn&Update~


 その後、我々は新型コロナウイルスの感染拡大による未曾有の事態を迎え、非接触・非対面による業務遂行に向けたオンラインの必要性に迫られ、デジタル導入の障壁が下がり、奇しくもデジタル化が進みつつある状況となっている。
 企業ではテレワークが一気に加速し、オンライン会議が当然のように受けいれられるようになった。また、街中の人流や店舗・車両の混雑状況のデジタルによる可視化によって、個々人での三密回避行動も可能となった。

 このような世の中のデジタル化の動きに呼応するように、人材育成の領域でも「デジタルリテラシー」が語られるようになってきた。2020年5月に一般社団法人日本経済団体連合会が発表した「Digital Transformation (DX) ~価値の協創で未来をひらく~」では、共創DX指針として、デジタルリテラシー教育の計画・展開の必要性をうたっている。

参 考 » 経団連 Digital Transformation (DX) ~価値の協創で未来をひらく~


 内閣府では、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会議が開催され、大学生に対するデジタルリテラシーを底上げするための教育カリキュラム「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」を創設した。

参 考 » 数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度 (リテラシーレベル)」の創設について


 また、今年に入り2021年4月20日に「デジタルリテラシー協議会」が設立された。デジタルリテラシー協議会は、これまでのITの領域にとどまらず、AIやデータサイエンスなどのこれから必須となるデジタル技術を網羅的に取り込み、現代におけるビジネスパーソン共通のデジタルリテラシー「Di-Lite」として整備した。これは、今後求められるリテラシーの広がりだけでなく、ビジネスにおける役割の広がりを見据えて体系的に整理した点が特徴といえ、まさに全ビジネスパーソンに必須の共通リテラシーといえるだろう。

参 考 » デジタルリテラシー協議会


 私事にはなるが、著者が所属する株式会社チェンジでも、デジタル人材育成事業は、これまでのIT・SI企業だけでなく、金融・自治体などのユーザー企業における全社員向けデジタルリテラシー教育サービスが増えてきている。今後さらに拡大するニーズに応えるべく、2021年4月1日に、株式会社チェンジとKDDI株式会社の合弁会社として、株式会社ディジタルグロースアカデミアを設立した。
 まさに2年前のコラムに書いたように、デジタルを利用する側のスキルやリテラシーが求められ、学生や社会人に対してデジタルリテラシー教育を浸透させるための環境が整ったといえる。

 このようにデジタルリテラシーに関する教育プログラムが浸透しつつあることで、これからの日本のデジタル化に向けた障壁はなくなり、一気に加速するだろうか。現状では、まだそこまで至っていない。その理由にはいくつか存在する。
 一つに、現状のデジタルリテラシー教育だけでは、AIによる我々の仕事が奪われるのではないかという不安、デジタル活用による我々のプライバシーや情報の搾取、セキュリティ被害などの「デジタルに対する恐怖」への対策が不十分な点が挙げられる。
 例えば、政府によるマイナンバーカードなどの浸透が進まないのもまさにこの一例といえよう。マイナンバーカードが普及した未来の利便性を十分に感じられていないこととともに、データの搾取やプライバシー面での危惧がつきまとっているのであろう。現状のデジタルリテラシー教育ではこれらの恐怖に対して、知識レベルにとどまるものが多く、マインド面まで訴求するものが少ないのが実情といえる。この恐怖や危惧を払拭するために、デジタルを避けるのではなく、サイバーセキュリティ技術を適切に導入する必要性を理解し、デジタル被害を避けるためにデジタルで対応するということを理解しない限り、この問題は解消しないであろう。

 そしてもう一つの問題が、「誰ひとり取り残さないデジタル化社会」に向けたデジタルデバイド問題である。例えばスマートフォンを所有しない高齢者や、インターネットにアクセスできない方への対応方法である。この議論もデジタル化を進めるうえで必ず出てくるものであるが、その対処方法として「デジタルとアナログを併存させる」選択を行うと、結局業務プロセスが複線化するだけでなく、デジタルとアナログの突合という新たな業務が発生し、結果これまで以上に業務が増えてしまう。例えば、コロナウイルス感染症関連の給付金支払いに各自治体が手間と時間を要したのもこの問題といえる。
 このデジタルデバイド問題も、本来はデジタルで解決すべき問題といえる。例えば交通系ICカードなどはスマートフォンがなくてもできるデジタル化の一例であり、利用者と利用データをひも付けるのに効果的なデータ収集手段となりうる。インターネット環境がない人には、公共でインターネット環境を用意し、利用するためのデジタル活用支援員を置くことで、デジタル手続きに集約することも可能なはずである。

 これからのデジタルリテラシーとは、単にデジタルに関する教養を身に付けるだけでなく、普及・浸透させるために「デジタル被害を避けるためのデジタル活用」や「デジタルデバイド問題を解消するデジタル活用」という点でのマインドを利用者に根付かせることが重要であり、この浸透が進んだ先に本当のDXが進むものと考える。
 さて、この数年で皆さんの身の回りはどれだけデジタル化が進んだでしょうか? 誰ひとり取り残さないデジタル化社会に向け、我々が取り残されないようデジタルリテラシーをしっかりと身につけていきましょう。


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