人材育成コラム
リレーコラム
2021/6/21 (第135回)
第4次産業革命
株式会社教育エンジニアリング研究所 代表取締役
一般社団法人IT人材育成協会 理事
木村 利明
ご存じかとは思いますが「第4次」と称するに至る流れを簡単に記します。
- 第1次:蒸気機関の発明等による工場の機械化(18~19世紀)
- 第2次:分業と電力を活用した大量生産化(19~20世紀)
- 第3次:コンピュータ制御を活用した生産工程の自動化(1970年~)
第4次産業革命は、どうやら「これ」という形で定義されたものはなく、いくつかのコアとなる技術革新そのものを指すようです。「IoT(モノのインターネット)」「ビッグデータ」「ロボット」「AI(人工知能)」などですね。
人材育成を考える立場の多くの人たちも、この第4次産業革命を実現する担い手を育てるということに主眼を置き、注目すべき技術としてIoT、AI、ロボットやセキュリティを挙げ、その研修内容を整備しようとしています。
それはそれで正しいことだとは思いますが、何(どんな技術)を学ばせるかだけではなく、そろそろ「どう学ばせるか」ということにも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
ここから論点を変えますが、「第4次産業革命」というのは大げさな気がします。
革命というのは、人々の生活様式、経済システム、国家の在り方、社会、文化、価値観等が根底から変わることを言いますよね?
産業革命自体は、それによって社会全体が「農業社会」から「工業社会」に大きく変貌しましたから「革命」という名にふさわしいですが、その後の「機械化」「大量生産化」「自動化」は工業化の流れの中における進展の一側面に過ぎません。
まして「第4次」はそういった定義さえもないわけですから、「革命」ではな く、せいぜいOSのバージョンに似せた「4.0」が適当な表現だと思います。
1980年に発表された『第3の波』(アルビン・トフラー著)以来、世の中は「狩猟社会」⇒「農業社会」⇒「工業社会」⇒「情報社会」という流れの中で、様々な事象が解釈されるようになりました。
狩猟社会から農業社会への変化が「第1の波」であり、それは「土地」の価値の発見と上昇という形で説明されています。要するに人類が定住したことによる社会変化ですね。
「第2の波」が産業革命です。石炭と蒸気機関から始まりましたから「エネルギー」による社会変革で、ここから工業社会が始まりました。
そして20世紀半ばにコンピュータが出現し、「情報」の価値の発見・上昇と相まって「第3の波」が押し寄せてきました。現在は、「脱工業社会」つまり「情報社会」への大きな社会変革が起きているとされます。
トフラー氏が『第3の波』を発表してから40年以上たちました。
世界ではもう「情報社会」への変革はかなり進んでいるはずですよね。
…わが国日本はどうでしょう?
全世界を覆っている「コロナ禍」ですが、その中で、日本ではICT(情報通信技術)の脆弱さが浮き彫りになりました。(いまだに手書き・FAXとか、進まないテレワーク、低レベルのオンライン教育などが話題になりました。ほぼその実態はご存じでしょうから詳細は省略します)
「技術立国」であったはずの日本が、肝心の「情報技術」で世界に後れをとっているということがはっきりしたのです。
実は、技術だけの問題ではなく、考え方や、文化・価値観などが「工業社会」から一歩も抜け出していない(「脱工業社会」に成功していない)、そのことが重大なのです。
日本にとって「ものづくり」は経済を支えるための重要な根幹ですが、人材育成は「ひとづくり」です。
これまでの「ものづくり」と同じ(工業社会的)価値観・方法論で通用するのかどうかは、関係者一人一人が真剣に、深く考えるべき問題であると思っています。ここを間違えると、これからは「ものづくり」さえ世界の水準から取り残されてしまうのではないか、という危惧があります。
…というより、もはや明らかに取り残されつつあるのではないでしょうか。国民一人当たりのGDP(国内総生産)は、世界トップだった30年前から、今や20位以下にまで下がっているのです。
端的に言えば、日本は、組織も個々人としての能力も著しく低下しています。この危うい現状を、誰もが直視しなければならないと思います。
そして、それを打破するのは、やはり「教育」の力しかありません。
残念ながら、学校教育や企業研修の実態は、まだまだ「工業社会型」教育から抜け出せてはいません。
そうあるべき「情報社会型」教育を簡潔に言えば、「学習者参加の学習方式」「様々なレベルの学習者が個々に合った進度で学習する」です。
「工業社会型」教育、すなわち「画一的一斉授業」では、まったく通用しないのです。
…さあ、「教える」という(時代遅れの)常識から、今すぐ「離脱」しましょう!
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