人材育成コラム
リレーコラム
2021/8/20 (第137回)
データサイエンティスト検定始まる
ITスキル研究フォーラム DX意識と行動調査 ワーキンググループ 副主査
株式会社ディジタルグロースアカデミア 代表取締役社長 兼 株式会社チェンジ 執行役員
高橋 範光
さて、この猛暑の予測や新型コロナウイルス感染状況の予測、オリンピックのメダル獲得予測などの身近な予測の多くは、昨今のデータサイエンス技術、例えばシミュレーションなどによって行われており、都度修正しつつではあるものの、かなりの精度で予測が可能となってきている。
ここまで身近になったデータサイエンスをもっと使いこなせる人材を増やそうという動きが2021年に入り加速してきている。一つは政府が掲げるデジタル人材育成の動きである。今後5年でコアとなるデジタル人材を175万人育成し、中でもデータサイエンティストを25万人輩出するという明確な目標が掲げられた。さらに、この目標にはコアとなるデジタル人材を含むデジタルを普及させるリテラシーを有する人材、すなわちリテラシーレベルでの人材を500万人育成するという計画も同時に打ち出している。
そして、もう一つが一般社団法人データサイエンティスト協会によってこの9月から開始が予定されている「データサイエンティスト検定」である。これまでデータサイエンティスト普及のためにデータサイエンティストスキルチェックリストの定義・公開を始めとする様々な活動を推進してきた同協会が、まずはデータサイエンスプロジェクトの一担当として課題解決に取り組む見習いレベルに該当する「データサイエンティスト検定 リテラシーレベル」を測る検定を開始することを発表した。
公開されている情報を見ると、検定の対象者としては、データサイエンティスト初学者やこれからデータサイエンティストを目指すビジネスパーソン、加えてデータサイエンティストに興味を持つ大学生や専門学校生などと書かれているので、まさにリテラシーレベルの検定であるといえる。
検定の出題範囲は、データサイエンティストスキルチェックリストの三つのカテゴリであるデータサイエンス力、データエンジニアリング力、ビジネス力のすべての領域における★1(見習いレベル)相当のスキルであり、スキル項目を数えると147スキルとなる。加えてこの検定では、大学生を対象とした「数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)におけるモデルカリキュラム」の知識を有することも含んでおり、基礎的ではあるものの広範囲なスキルを問う検定であることが分かる。これまでのデータサイエンス系の検定、例えば統計やデータベースなどの個別スキルを問う検定とは異なり、偏りなく全方位のスキルを網羅する検定であり、より実践的かつ実務よりの検定といえるだろう。
一方で、実際に25万人もデータサイエンティストが育成できるのか? 検定でデータサイエンティストを名乗れるのか? 実務が必要なのではないか? 変化が激しいスキルを検定で測れるのか? などの声も少なからずあるだろう。
私も2013年以降多数のデータサイエンスプロジェクトを経験し、データサイエンティスト育成研修を提供してきている中で、やればやるほど奥が深く、また新技術が登場するこの分野において、データサイエンティスト育成が勉強だけでできるほど簡単ではないことは理解しており、三つのカテゴリを網羅し、実践も重視した研修提供を続けてきた。また、常に研修を最新技術に更新してきた。
今回の検定はデータサイエンティスト協会が主催するものでもあるので、スキルチェックリストの更新に伴う検定のブラッシュアップも行われるだろうことを考えると、一定の網羅性に加え、更新性という点ではカバーできそうである。そうであれば、受検時点の必須スキルを習熟しているかを簡単に測定できるメジャメントと捉え、定期的に試験を受け続けることを目標とし、日々研鑽すれば決してペーパーデータサイエンティストなどということにはならないだろう。あくまで手段として捉え、目的である様々な問題解決や社会貢献に役立てる端緒と考えればよい。
2013年の事業開始当初、データサイエンティストという職種が小難しく、なかなか受け入れられなかった時代から考えると、10年たたずしてここまで求められる職業になったということについては隔世の感である。
データサイエンティスト育成の明確な目標が掲げられ、さらにその手段の一つとしてのデータサイエンティスト検定も開始された。目標と手段の両方が出そろった今、ここまでお膳立てされれば目標達成に向けてただ走るのみであり、それ自体我々は決して苦手ではないはずである。
この夏の在宅生活を過ごす一つのコンテンツとして、データサイエンティスト検定を受ける勉強を開始し、明るい日本の未来を自らの手で開拓する第一歩を踏み出してみてはどうだろうか。
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