人材育成コラム

リレーコラム

2021/11/22 (第140回)

先の見えない時代に、どう生きるべきか立ち返るための教科書!

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 終盤を迎えている、大河ドラマ「青天を衝け」の主人公で「日本資本主義の父」といわれているのが渋沢栄一である。2024年度に発行される新一万円札の肖像となることで一躍脚光を浴びることになった。彼は、幕末から昭和までを生き抜いた起業家である。一般的な知名度はあまり高いとはいえない。しかし、起業家として設立に関わった会社は500社を超えるといわれる。例えば、朝の通勤は東急電鉄とJRで出勤。毎朝、日経新聞を読み、晩酌はキリンビールやサッポロビールを愛飲する。メインバンクはみずほ銀行、ライフラインは東京ガス、東京電力を利用している。そんな日常を過ごす企業人も多いと思う。渋沢栄一は、ここに出てきた数々の大企業の設立に関わっていたのである。そんな渋沢栄一の言葉を編んだ本が「論語と算盤」であり、百年続く生き方の教科書としてベストセラーである。今年で退任するプロ野球の日本ハム栗山監督が選手に配り読ませたことで有名である。今年、大リーグで大活躍した大谷翔平選手の愛読書といわれている。

 なぜ渋沢栄一は、論語を選んだのか。本書で、孔子は「偉大な常識人」であると言っている。特別な長所も短所も無く、人より抜きんでた能力や強い個性を持った天才・奇人でもないのが孔子である。論語は、平凡な人でも手が届く、個人の身を修めるといった日常的な実践指導も可能、そして何より時代が変わっても変化しない人間と人間社会の本質を描いていることに着目したようである。一方、算盤は金儲けする経済(商売の道)を表している。人道と商売の融合が日本資本主義の発展に重要と実践し、現在の礎を築いたのだろう。

 「論語と算盤」は、現代語訳が出版されており、読みやすく内容も維新から大正にかけて起こった出来事や偉人と渋沢栄一の関りが描かれた自叙伝で、さらっと読むことができた。そのなかに論語を基にした人生訓が描かれていた。記憶に残ったいくつかを紹介する。

  • 人は、誠実にひたすら努力し、自分の運命を開いていくのがよい。もしそれで失敗したら、「自分の智力が及ばなかったため」とあきらめることだ。逆に成功したなら「知恵がうまく活かせた」と思えばよい
  • 政治の世界で、今日、物事が滞ってしまっているのは、決めごとが多すぎるからである。もともと形式に流れるような風潮は、発展中の元気溌剌な国には少ないものだ。逆に、長い間の習慣が染みついた古い国に多くなる
  • 何かをするときに極端に走らず、頑固でもなく、善悪を見分け、プラス面とマイナス面に敏感で、言葉や行動がすべて中庸にかなうものこそ、常識なのだ。欧米諸国の、日々進歩する新しいものを研究するのも必要であるが、東洋古来の古いもののなかにも、捨てがたいものがあることを忘れてはならない
  • 一個人の利益になる仕事よりも、多くの人や社会全体の利益になる仕事をすべきだ
  • 人が世の中を渡っていくためには、成り行きを広く眺めつつ、気長にチャンスがくるのを待つということも、決して忘れてはならない心がけである
  • 信用こそすべてのもと、わずか一つの信用も、その力はすべてに匹敵する

 「論語と算盤」は、渋沢栄一の人生訓であり教育論である。論語による人格形成と、資本主義の利益追求、の両方が経済を発展させ、利益を独占するのではなく、国全体を豊かにするために、富は全体で共有するものとして社会に還元するという考え方である。まさにコロナウイルス拡大が一段落した現在、SDGs(持続可能な開発目標)を推進しつつ経済回復を目指すのに、利益だけを追求する経営ではなく、社会的責任を考慮した経営シフトのための参考書として再び注目を浴びている。リモートワークなどで自宅にいる時間が多くなっている今日、デジタル時代で書籍を読む機会も少なくなった皆様、夜長の今だからこそ読書を勧める。もちろん電子書籍も提供されている。

参考書籍:現代語訳 論語と算盤
渋沢栄一(著)/守屋 淳(訳)/筑摩書房/256ページ


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