人材育成コラム
リレーコラム
2021/12/20 (第141回)
デジタル人材育成の1年を振り返り、これからの「オリジナル」について考える
ITスキル研究フォーラム DX意識と行動調査 ワーキンググループ 副主査
株式会社ディジタルグロースアカデミア 代表取締役社長 兼 株式会社チェンジ 執行役員
高橋 範光
デジタル人材育成にとっても、今年は節目となる1年でした。3月に、昨年度の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度 (リテラシーレベル)」に続く、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度 (応用基礎レベル)」の創設が内閣府の数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度会議より発表されました。ついで4月に、データサイエンティスト協会からデータサイエンティスト検定TMリテラシーレベルが発表され、9月には検定が開催。さらに同4月に、情報処理推進機構(IPA)とデータサイエンティスト協会(DSS)、日本ディープラーニング協会(JDLA)がデジタルリテラシー協議会を設立し、全ビジネスパーソンに対するデジタルリテラシーの重要性を問うと、政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、デジタル人材500万人(うちコア人材が150万人)の育成方針が決定されました。そして11月、岸田首相から「デジタル人材育成に関する3年で4000億円の政策パッケージ」の創設が発表されました。
コロナウイルスによりリアル活動が一定の制限を受けるなか、テレワークやEコマースなどのデジタル活用が日々の生活に入り込んでいます。リアルとデジタルが融合する現在の経済や生活において、デジタルに関する様々な知識やスキルをあらためて習得していくべきという流れができつつある。そう実感する象徴的な1年となったといえます。
デジタルに関する取り組みを国家や企業の成長戦略に据えられると、デジタル人材が重要なパーツであることがあらためて認識され、そのための指針や資格、政府の補助なども整ってきたことで、2022年以降さらにこの流れが加速することはまず間違いないでしょう。
では今後加速するデジタル人材育成の流れとは、どのようなものでしょうか。大きく二つの流れがあると考えています。一つ目が「誰も取り残さないためのデジタルリテラシー教育」、二つ目が「日本や企業が勝つためのオリジナルな人材の育成」です。
一つ目の「誰も取り残さないためのデジタルリテラシー教育」とは、より多くの人が企業や生活においてデジタルを活用するための教育です。デジタルを当たり前のように使いこなせるようになるために身につけるべきリテラシーは、前述したとおり、大学や企業人向けにこの1年で整備されつつある内容で、IT・ソフトウェア、データサイエンス、AI/DL(深層学習)などの基礎的知識となります。自動車の世界に置き換えると、自動車の運転のために必要な道路標識の読み方や自動車の機能の理解、そして基本操作ということになるでしょう。一方で、誰も取り残さないためには、より使いやすいデジタルツールの普及も不可欠です。難易度が高いツールだとなかなか多くの人に触ってもらえません。先ほどと同様に自動車の世界に置き換えると、マニュアル車(MT)だけでなく、より運転しやすいオートマ車(AT)を開発し普及させるようなものです。オートマ車の普及は、自動車免許取得者数の増加につながり、自動車利用を加速させた要因の一つといえます。デジタルについても、産業界がより使いやすいデジタルを提供し、利用者である社員や国民がその使い方を学び一人でも多くの人が使っていくことが普及への流れといえるでしょう。
次に二つ目の「日本や企業が勝つためのオリジナルな人材の育成」についてです。デジタルコア人材として「データサイエンティスト」や「サイバーセキュリティスペシャリスト」、さらに、ビジネスとデジタル技術の融合を指揮できる人材である「アーキテクト」などの各種デジタルコア人材の定義が進みつつあり、これらの人材の採用や育成が検討され始めています。
そこで我々が考えなければならないのは、優秀なデジタルコア人材とはどのような人材かということです。それは、デジタル技術に長けているということはもちろんのこと、自社のビジネスを大きく成長させることができる人材といえるでしょう。ということは、自社の発展に向けて必要なデータサイエンス技術とは?セキュリティとは?デジタル技術とは何か?をそれぞれ定義した上で、様々な人材を配置していく必要があります。それは、金太郎飴のように、世の中一般的なデジタル技術者トレーニングを受ければなれるものではなく、自社オリジナル、そしてその社員オリジナルな人材育成が求められるということです。
最近のデジタルコア人材の育成では、プロジェクトベースドラーニング(PBL)や、OJT・出向などのトレンドがでてきつつありますが、これは実践から学ぶということだけでなく、技術の可能性×自身の成長の方向性によってうまれる多様性のある人材育成が求められているからだといえるでしょう。
全員で共有するためのリテラシー、そして、自社が勝ち抜くためのオリジナルなスキル、この二つの掛け算を、2022年以降の自社のデジタル人材育成戦略の中核に据えて、年末年始に考えてみてはいかがでしょうか。
