人材育成コラム
リレーコラム
2022/04/20 (第145回)
社員が自発的に学び、育つ組織とは?
株式会社ディジタルグロースアカデミア 執行役員
神宮司 剛
最近、全社員向けのデジタルリテラシー教育について相談をうける機会が増えました。昨年はデジタルリテラシー協議会が全てのビジネスパーソンが持っておくべきデジタルリテラシー「Di-Lite」をリリースし、先日は経済産業省がDXリテラシー標準を発表しました。これに呼応して人材育成の場でもデジタルリテラシーやリスキリングの必要性が広く認知されるようになったと感じます。
一方で、現場の社員にとっては自分事化が難しい、関心を持ってもらえない、デジタルが毛嫌いされるという話を耳にします。しつけとして学ばせることができても、どうしてもやらされ感がでてしまう。行動が変わらなければ意味がない。このような課題感はマネジメントに関わる方であれば少なからず感じていることと思います。
どうすればやらされ感なく、自発的に学び、育つ組織が作れるのだろうか。4月初旬の花散らしの雨が降る週末に、経産省主催の「持続的企業価値を創造する人的資本経営」オンラインセミナー動画をみて考えたことを書いてみたいと思います。
まず「自発的に学ぶ」ためにどんな動機付けが必要でしょうか。デジタルを使えれば仕事が楽になる、というのは事実ですし動機の一つでしょう。しかし、現状に満足している人にとっては動機にならずその点が課題です。自発的な行動を促すなんらかの意味付けが必要に思います。
(1)学びが働きがいにつながる
学びの意味付けについて、先のオンラインセミナーで、ソニーグループの会長兼CEO吉田氏がヒントになることをおっしゃっていました。同グループでは、社員が自身の生きがいや働きがいとソニーグループのパーパス(存在意義)を結び付けられるように継続的な対話を大事にされているそうです。
ソニーグループはパーパスに「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす。」を掲げています。世界を感動させることが社員の働きがいとなり、そのためであれば自発的に新しいことやテクノロジーを学び試行錯誤するのはごく自然なことに思えます。
そう考えると「自発的に学ぶ」には「学びが働きがいにつながるという期待や実感が持てる」ことが大事という、当たり前のことに気づきます。少なくとも働きがいを感じられずに仕事をしている状況で学びを求めても無理強いにしかならないのは明白でしょう。働きがいがある仕事を作らずして人材育成はできないという、当たり前のことに向き合う必要がありそうです。
そうはいってもデジタルに関係ない仕事、働きがいを感じにくい仕事もあるのではないか、という声がありそうです。確かにそうかもしれません。ただそういう仕事こそデジタルを生かしてなくしたり、変えたり工夫していくことが必要で、どうすればそこに社員の働きがいを持たせられるかをマネージャーは考える必要があるでしょう。
次に社員が「自発的に育つ」ために必要なことは何でしょうか。まず必要なことは実践できる場があることでしょう。せっかくデータ分析の方法を学んでも、生かせる環境や機会がなければ身にならず成果もでません。一方で、今のままでもよいという人はどうするか。
(2)個人と組織が互いに選び選ばれる関係
この点について先のセミナーで、従来のメンバーシップ型雇用の楽観的な信頼関係を前提とした個人と組織の関係を見直す必要があると一橋大学CFO教育研究センター長伊藤氏が説明されていました。個人の自律性を高め、個人と組織が互いに選び選ばれる関係性を作るべきであると。
選び選ばれる関係性とは実際にはどういうことでしょう。私が以前勤めていた会社を例に考えてみました。その会社では、ジョブ型雇用制度でキャリア形成は自己責任とされていました。一方で、権利も与えられており、いつでも募集中のポジションに応募することができます。上司は全面的にサポートすることが求められており、実際に社内異動は活発に行われていました。異動されると上司は大変なので、常日頃から部下を成長させ満足を高めることが求められる環境でした。また、常に社員の平均レベルを上げていくことを人材戦略としており、今のままでいいという現状維持が認められない仕組みがあります。
実現の仕方は様々にせよ、健全でオープンに個人と組織が互いに選び選ばれる関係が「自発的に育つ」組織には求められるといえそうです。昨今タレントマネジメントの重要性がいわれており、ジョブ型雇用制度への移行や、適材適所の人材配置に取り組む企業も増えています。制度整備に終始し目指す方向性を見失わないようにすることが大事になりそうです。
以上、社員が自発的に学び、育つ組織に求められることを書いてみました。ほかにも必要なことや大事なことがあると思います。今に始まったテーマではないですが、デジタルによって学び直しが問われる今、人のマネジメントに関わる方はぜひ考えてみてはいかがでしょうか。
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