人材育成コラム
リレーコラム
2022/10/20 (第151回)
カスタマーサクセス
ITスキル研究フォーラム 理事
日立建機株式会社 人財本部 人財開発統括部 主席主管
石川 拓夫
先般、社外有識者との意見交換の場で、カスタマーサクセスに関する話を聞いた。あるプロダクトメーカーの幹部の方で、SaaS企業などで名を馳せて、データドリブンなサービスビジネス立ち上げのためにスカウトされて着任された方だ。このプロダクトメーカーのお客様は、完成品組み立てメーカーや販売会社であり、着任当時には、このお客様にプロダクトを納めたら終わりで、そのあとのエンドユーザの反応(例えば解約率など)は無関心で驚いたとのこと。ここからどうカスタマーサクセスを組織に理解させ、サービスビジネスを立ち上げてきたかの悪戦苦闘の物語は、示唆に富んで大変面白かったが、内心他人事ではないなと痛感した。私の所属する建設機械メーカーだけではなく、多くの製造業に共通した苦悩ではないかと思う。
デジタル技術の伸展がさまざまな不可能を可能にし、サービスビジネス化を後押ししている。詳しく知らない人は、無関係かハードルが高いと感じていることが多いと思うが、自分を消費者の立場において自分事として考えれば、カスタマーがサクセスを求めていることはよくお分かりだろう。自分だって所有よりサブスクを選び、乗り換えながら、最大価値を求めているかもしれない。このような時代に自分の所属するメーカーだけ蚊帳の外というわけにはいかない。時代背景やデジタル技術により実現できるリアルを理解した上で、自分の所属する会社の改革・革新を考える必要があり、人財育成部門が担う役割も拡大しているように思う。
一番怖いのが突然のゲームチェンジだと思う。そうなる前に、時代背景やデジタル技術活用による新たなビジネス創出の事例などを学び、最悪シナリオに備えるというような受動的な動機ではなく、カスタマーサクセスを実践して、能動的に勝ち抜く下地をつくる役割は教育かもしれない。そんな思いがしている。
先日、お客様を強く意識した上で、デジタル技術を活用したビジネスの創出を目的とした社内のワークショップを行った。この中の一チームが、顧客の定義を工場の設計者に設定し、新機種開発のニーズの集約に関するスキーム構築を検討していた。これを聞いて、真のカスタマーとの接点の薄さを痛感した。概念的でも(作文でも)よいから、顧客の定義を最終的なカスタマーに置き、カスタマーサクセス実現のために、工場の設計者はどのようにニーズを集めればよいのかというシナリオにすれば、ニーズを求める先や活用の仕方は、もっと広がりをもって発想できただろうと思う。このスタートラインから人財育成部門として何ができるか、何から手を付けるべきか、後手にならないように仕掛けていく必要があると感じている。