人材育成コラム

リレーコラム

2023/04/20 (第157回)

生成系AIの登場とこれからの人材育成

ITスキル研究フォーラム DX意識と行動調査 ワーキンググループ 副主査
株式会社ディジタルグロースアカデミア 代表取締役社長

高橋 範光

 第4次産業革命の中心に位置づけられる人工知能(AI)が、2022年後半からこれまでにないスピードで発展を遂げている。特に、生成系AI(GPT-4など)の登場により、さまざまな分野で新たな可能性が開かれており、社会全体を大きく変革しつつある。今回はこの生成系AIの進化がもたらす影響と、これからの人材育成に求められる取り組みについて考察していく。

 生成系AIは、文章生成や画像生成といった、従来は人間が行っていたクリエイティブなタスクの一部を自動化する能力を持っている。この技術の発展により、ビジネスや学術、芸術など幅広い分野で効率化が進み、新たなサービスやアイデアが生まれることが期待されている。

 一方で、AIによる自動化が進むことで、従来人間が保有しているスキルや知識が陳腐化し、人材育成に新たな課題が生じることも予想される。これまでも検索エンジンやスマートフォンの普及によって、単なる知識の蓄積のような教育についての限界が叫ばれてきたが、生成系AIの台頭によって、これまで以上に人材育成のテーマが変化するといっていいだろう。

 例えば、これまでのソフトウェア開発では、プログラミングスキルが重要な要素とされてきた。しかし、近年のテクノロジーの進化により、受付フォームやRPA、Webサイトなどの開発に関しては、ノーコードツールが次々と登場し、プログラミングの知識がなくても開発が可能となった。このような状況のなかで、求められるスキルは従来のプログラミングから「どのように作るか」を設計する内部設計や外部設計のスキルへと変化しつつある。同時に、従来はプログラミングスキルがハードルとなっていた人々にとっては、ノーコードツールの出現によってソフトウェア開発に参加できるようになり、多様なバックグラウンドを持つ人々が集まることで、より迅速に新たな価値を実現することが期待できるようになった。

 さらに、生成系AIの登場によってこの変化はさらに大きなものになっている。例えば、生成系AIで話題となったChatGPTを使えば、テトリスのようなゲームをブラウザで作るのに必要なコードまで書いてくれる。すなわち、「どのように作るか」といった設計行為まで自動化するようになるのである。すると、人間に求められるスキルはさらに変化し、我々には「どのような機能が必要か/求められるか」といった要件定義や要求定義のスキルが必要になってくるだろう。このように生成系AIが設計から開発までを担当することで、開発者はクリエイティブな発想やユーザーのニーズを捉える能力、さらには異なる業界や分野の知識を組み合わせ、より革新的なソフトウェアを企画することが求められるようになり、人材育成の領域がさらに変化するということが分かる。

 このように、生成系AIの進化は、単に我々の生活や業務を便利にするということはもちろんだが、今後業務で求められるスキルが変化するということを示している。エンジニアであれば、プログラミングスキルから設計スキルへ、そして要件定義のスキルへと求められる能力が移り変わるなかで、これらの変化に対応するには、人材育成においても新たなカリキュラムや研修プログラムを提供することが不可欠であり、育成される社員自身もこのような変化の波に抗わず、真摯に受け止め、柔軟にスキルをアップデートし続けることが重要となる。

 効率化一辺倒で戦ってきた時代は終わり、効率化だけでなく創造性や革新性を持った企画が求められる時代となり、活躍する人材も大きく変わるだろう。まさにあらゆる領域においてデジタルによる変革、DXが本格的に動き出したといえるだろう。この波に乗り遅れることなく、将来に向けて活躍できる人材の育成方法をゼロから考えていきたい。


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