人材育成コラム
リレーコラム
2023/06/20 (第159回)
自分の人生自分が主役
ITスキル研究フォーラム 理事
日立建機株式会社 人財本部 人財開発統括部 主席主管
石川 拓夫
キャリア自律の必要性については、読者の皆様には語る必要はないだろう。特に長年担当したIT業界においては、早くからITエンジニアには提供価値が求められ、これに焦点を当てたいろいろな取り組みが必然的に求められてきた。ITSSを活用し、スキル・キャリアを見える化し、自分で進む先を決め、それに向かうキャリアをデザインして、自分で取り組んでいく。そんな考えや取り組みは、自然なことだったと思う。まして技術革新や市場環境変化の激しい業界においては、掛け声だけではなく、キャリアサバイバルのために、好むと好まざるとにかかわらず、向かい合わなくてはならないことだった。提供価値は、会社が評価する前に、顧客が評価する厳しい業界特性が背中を押していたと思う。
こんな企業環境と学校教育の温度の違いが問題にもなった。学校教育では多くは与えられて当たり前だったので、企業においては、キャリア自律に向けてのマインドセットのために、新人研修中のキャリア研修は必要だった。今でこそ大学の就職指導の一環として、キャリア研修を行う大学等は増えつつあるように思うが、主に自己分析、自己理解が中心で、キャリア自律に向けてのマインドセットは、まだ遠い未来のこととして先送りされているように思う。だから今でも新入社員教育中のキャリア研修は、重要で必須な取り組みだと思う。でも新入社員たちにとっては、キャリア自律というと社会人になった後においても難しいと思うようだ。まずは「自分らしい生き方をするためには、どんな考えで、なにをめざして取り組んだらよいのか?」「その実現のために大切なのは、自律的な学び」であることを伝えることが重要だと思う。
さてこんな流れのなかで、初めて当社の新入社員向けキャリア研修の講師を担当した。1時間ほどなので、研修というよりも講義と言った方がよい。ITエンジニア向けには何度か担当したことがあった。またスキル標準ユーザー協会主催の認定コンサル向けの研修(1日)を担当したことがあったが、ITエンジニア以外は初めてだったので、正直どんな反応なのか、ドキドキ・ワクワクしながら担当した。
講義の概要は以下の通り。
- まず伝えたいことは「自分、仕事、社会を一直線にしよう」
- キャリアとは?外的キャリアと内的キャリア
- 内的キャリアを考える必要性
- 内的キャリア理解の演習(キャリア・アンカー)
- キャリア自律とは?その必要性、その現実
- MUST・CAN・WILLについて
- プランド・ハプンスタンス(計画された偶然性)
- 当社の人財育成の基本的な考え方
途中で新入社員各人のキャリア・アンカーを探る簡単な演習を実施した。自分の大切にしている価値観がなんなのかを明らかにして、内的キャリアを実感してもらうためだ。
キャリア・アンカーとは、キャリア人生を歩んでいくなかで無意識にこだわっているもので、8つのカテゴリーに分類されている。この8つのカテゴリーの対戦表を作成し、一番のカテゴリーを明らかにするものだ。そして大事なのは、同期と見せ合い、語り合い、フィードバックを受けることだ。また新たな気づきにも出会えるし、解像度も上がる。事後アンケートのコメントを見る限り、好評だったようだ。
演習の最後にどのカテゴリーが一番多かったか、挙手で確認した。8つのカテゴリーは、「専門・職能別」「全般管理」「自律・独立」「保障・安定」「起業家的創造性」「奉仕・社会貢献」「純粋な挑戦」「生活様式」だが、一番多く手が挙がったのはなんだったか?
それは最後の「生活様式:調和のとれた生活スタイルで働く。柔軟に働き方を選択したい」すなわちワークライフバランスを重視した生き方だった。それも圧倒的多数で。
コロナ禍の最中に大学時代をおくった新入社員の切なる願いか、慣れない演習で正直なところが出たのか、その理由は定かではないが、就活を通じていろいろ考えてきた素直な結果だと思う。
この結果を覇気がないとか挑戦意欲がないなどとは思わない。これも自分らしい生き方を模索するキャリア自律の一つだと思う。まっさらな新入社員のキャリア人生は、ここから始まるのだと思った。自分、仕事、社会を一直線にして、納得のキャリア人生をおくってほしいところだが、いきなりは難しい。マネージメントスタイルなどで培われる企業の組織文化と、それを深める企業内教育の腕の見せ所なのだろう。
自分の人生自分が主役!と新入社員のみんなが歩み始めてくれることを期待したい。そのためには、会社は彼らのキャリア自律を支援し、Win-Winの関係を維持していくことが重要だと思う。
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