人材育成コラム

リレーコラム

2023/08/21 (第161回)

人材育成の取り組みに感じる違和感とは?

株式会社ディジタルグロースアカデミア HRDエバンジェリスト、カスタマーサクセススーパーバイザー

柴田 佳幸

 デジタル人材育成、DX推進が国策として叫ばれ、そして、変化激しい時代の中で生き残りを掛けて、企業各社も業界によらず人材育成に取り組んでいる。それは、このコラムで語るまでもない大きな流れだろう。
 各企業は共に、お金も時間も費やして人材育成に取り組んでいるのだが、その進め方に大変違和感を抱いている。大変申し訳ないのだが。

 「人材育成の取り組みに違和感を抱く元は何なのだろうか?」
 違和感の元について、Harvard Business Review(2022.01)に掲載された、「デジタルトランスフォーメーションの最上位の課題」のTOP5に触れてみたい。
 ▼課題TOP1=「自社の ”組織全体” におけるデジタルトランスフォーメーションの ”受容” 」
 ▼課題TOP5=「 ”継続的に学習する文化” の創造/サポート」
 筆者は、TOP5の課題から特に、上記2つに着目している。

 お分かりになるだろう。「デジタル活用によって変わっていくことを”組織全体”で”受容”」することがTOP1に来ている。しかし、組織全体の取り組みではなく、「新人向け」や「コア人材向け」、「管理職向け」といった「組織の一部」に対する人材育成やスキル教育をしている企業を散見する。
 ではなぜ、「組織の一部」の育成では具合が悪いのか? ここで少々、認知科学を基に考察してみたい。

 人が物事を思考したり判断したりする際には、これまで培った知識と経験から、誰もが「既成の判断ロジック」を持っている。そのことを認知科学では「スキーマ」と呼ぶ。幾つものスキーマがシステム化され稼働することで、人は起きた物事や入って来た情報を素早く処理して判断できる。非常に便利なシステムである。しかし、このスキーマは「過去」の知識と経験の集合体であるため、新しく入って来た情報に対して、正しく反応してくれるとは限らないし、反応できずにスルーすることもある。

 新しいことを学んだ「組織の一部」の人は、スキーマがUPデートされたり、新たに作られたりする。
 一方で学んでない人は古いスキーマのままだ。新しいスキーマを基に何か新しい提案をしても、古いスキーマの人は正しく評価をできないかもしれない。その提案が素晴らしく良いものだったとしても。

 つまり、自社の組織を構成する人は、トップマネジメントから管理職、一般社員に至るまで、スキーマをUPデートすることが大切になる。しかも、絶えず、続けて、全員で。
 なぜか? デジタルの技術やトレンドの変化が早いから。
 既に幾多の人が語っているが、chat GPTに代表される「生成系AI」の「登場前/登場後」では大きく働き方とビジネスが変わりつつある。自社の社員のUPデートができていようが、いまいが、世の中の変化は待ってはくれない。

 だから、”継続的に学習する”ことが、社員のひとり一人に必要になる。
 人材育成に取り組む方々には、”継続的に学習することが自社の文化”にまでなるよう、社内文化創造のサポートにぜひとも心血を注いでいただきたい。
 人材育成のチカラで「勤勉な日本人」をrebootさせ、世界に誇れる日本で有り続けよう。
 そのために、私も微力を尽くし、各社の人材育成担当さまとより良い取り組みを話し合っていこうと思う。


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