人材育成コラム
リレーコラム
2023/09/20 (第162回)
「IT利活用人財」のスキル評価について
ITスキル研究フォーラム 理事/株式会社日立アカデミー
宮浦 智範
私のキャリア
1997年からSIやコンサルティングに従事し、JavaやUMLによるモデリングなどのオブジェクト指向技術を習得しました。Webシステムが広がり、Strutsなどのオープンソースソフトウェアが急速に普及したこの時代に、システム開発の全工程を網羅的に学べた経験は、私のキャリアにおいて大きな財産となっています。
その後、2004年に日立インフォメーションアカデミー(現、日立アカデミー)に入社し、ITエンジニアの育成に従事しました。ダイナミック・ヒューマンキャピタル株式会社の中村氏を介して、ボブ・パイク氏の「参加者主体」のコンセプトに感銘を受け、"退屈な教育プログラム"の改善のため試行錯誤を重ねました。さらに、半年から1年にわたるシステム開発プロジェクトを通じて、学習、評価、フィードバックを繰り返す、いわゆるPBL(Project Based Learning)にも取り組みました。
現在の職務
現在は、以下の工程に沿って人財育成の「仕組み」作りを支援しています。必要な方に適切な育成施策を提供するためにも、このような仕組み作りが重要だと考えています。
- 事業計画などをもとに、社員が行う活動を定義する
- 活動を推進するために必要な知識・スキルを整理する
- 「人財マップ」を可視化する(アセスメント、ダッシュボードの実装)
- 現状と目標のギャップから育成テーマを絞り込む
- 育成計画を立てる
業界トレンド その1
人財育成の環境は着実に変化しており、その一つに育成施策の多様性があります。特に定額制の「学び放題」サービスが目立つようになり、チャット形式で質問に答えながら学ぶもの、理解度に応じて学習コンテンツを選ぶアセスメント機能付きのもの、コミュニティ機能や競技要素を取り入れたものなど、様々な特徴を持つプラットフォームが存在します。
また、無料で学べる素材もそろってきました。YouTubeなどユーザ投稿型のサイトが代表例ですが、政府広報オンラインの「リスキリング|ミライの歩き方」、IPA独立行政法人情報処理推進機構の「マナビDX」や「DX SQUARE」など官公庁主導の情報提供サイト、JMOOCやAsuka Academyといった大学講座を学べるプラットフォームもあります。さらには、自社開発した研修教材や、製品知識を学ぶコンテンツを一般公開する企業も出てきました。
これらにより、個々のニーズに応じた自律的な学習が容易になっていますが、一方で、組織主導型の教育とのバランスを見つけるのが一層難しくなってきています。
業界トレンド その2
iSRF理事長の田口氏のコメントにもあるように、個々の人財のスキルと人財ポートフォリオの可視化の重要性が高まっています。当社のお客さまにおかれましても、人財の保有スキルや業務経験などを人事情報と組み合わせて可視化し、より定量的・合理的に人財育成を進める方向に進んでいます。
iSRFのスキル診断サービスは、主にITエンジニアなどのテクニカルな職種に焦点を当てていますが、今後はより多くの職種や役割の方にその対象が広がると考えています。
今後の活動について
「社員のデジタル(IT)リテラシー不足」はデジタル推進の主な障壁とされており、多くのお客さまやレポートがその重要性を指摘しています。均一な教育プログラムの展開や資格取得の強制も対策の一つですが、結果として“デジタル(IT)嫌い“を生む可能性があるため、慎重に取り組む必要があります。
一例ですが、Webブラウザでの情報検索やオフィス・ソフトウェアに関するスキルは、しばしば過小評価されがちです。これら基本的なIT利活用スキルをしっかりと身につけていれば、日々の業務効率は大きく向上します。さらに、より専門的なデジタルツール(RPA、BI、各種ノーコード・ローコードツールなど)の導入もスムーズとなるはずです。例えばエクセルなどの表計算ソフトウェアであれば、既存の表やデータソースに基づいたデータの抽出、変換、書き込みのプロセスに習熟している方は、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールを使用したより高度なデータ解析に比較的短時間で適応できます。一方で、エクセルを単に表や文書の作成、編集に使っているレベルであれば、基本的なデータ理解やデータ集計や可視化のスキルを身につける必要があります。
必要な知識・スキルは企業や組織によって異なるため、「DXリテラシー標準」や「情報処理推進機構のITリテラシースタンダードフレームワーク」(独立行政法人情報処理推進機構)などを参考に、まずはデジタル(IT)リテラシーの共通認識を形成する必要があります。そのうえで、現状を正確に評価し、適切な研修プログラムやサポートを提供することが大切です。
iSRFの活動を通して、"IT利活用人財"に対するスキル評価の手法とプロセスをさらに充実させるべく皆さまと検討していきたいと考えております。
今後とも、ITスキル向上と利活用の推進に向けて、ITスキル研究フォーラムの活動をご支援いただけますようお願い申し上げます。末筆になりましたが、皆さまの益々のご躍進を心より祈念申し上げます。
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