人材育成コラム

リレーコラム

2024/8/20 (第173回)

スキル調査をきっかけに社内人材育成の促進を

ITスキル研究フォーラム 理事
NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリ

栗藤 高信

 iSRFが主催する全国スキル調査2024が終わりました。
 第23回ということで、かれこれ20年以上実施されているわけですが、これほどの期間にわたって、エンジニアに特化した形でスキル調査が実施されている事例は非常に少ないのではないでしょうか。調査の結果は例年、紙面にも掲載されておりますので、本年度の結果についてもぜひ目を通していただき、自社の人材育成や各個人のキャリア形成やスキルアップに活用いただければと思います。
(iSRFのWebサイトから過去の記事をたどれます)
https://www.isrf.jp/home/event/chousa/chousa_22th.asp

 調査が終わった直後ではありますが、本調査に限らずスキル調査≒アセスメントを実施、活用するにあたって大切と思われることを簡単に再確認しておきたいと思います。

アセスメント実施前

 「先に言え」といわれそうですが、実施前には、自社や自身のありたい姿や目標値といったいわゆるToBeを描いておくことが大切になります。
 個人のキャリア、スキルアップへの取り組みを念頭に置くと、最終的にはギャップ分析から問題の特定と課題設定、課題解決といった流れで考えることが多いでしょう。
 ギャップ分析を行うためには、現状(AsIs)と理想(ToBe)が必要になります。
 現状はアセスメント結果で出るわけですが、理想像は誰かが提示してくれるわけではありません。(所属する会社としての目標が提示されているケースもあるでしょうが)、自身にとっての理想像を、できるだけ具体的に設定しておくことが大切です。

 組織の事業戦略との整合や人材育成といった側面でも同じことがいえます。
 人事や人材育成の担当者であれば、事業責任や育成責任負った方とのコミュニケーションを通じて、理想像を設定しておく必要があります。
 大きな会社であれば、すでに自社内でのアセスメントが存在したりしますから、日常的に理想像に関する会話が行われているかと思います。その場合にはそれほど多くの事前準備は発生しないかもしれませんが、実施するアセスメントツールに合わせて具体的な理想像を設定しておくことが必要になるでしょう。

 理想像を設定できていないけれど、アセスメントをもう実施してしまった、結果も出てしまった、という方も多いのではないでしょうか。その場合にも後からでもよいので設定しましょう。理由は前述の通りでギャップ分析がなされなければ、具体的な施策に落とすことができず、せっかくのアセスメントの実施が効果半減となってしまうためです。

 後から理想像を設定する際の注意点としては、アセスメント結果をなるべく見ないことがあげられます。
 人間心理だと思いますが、結果を見てしまうとそれに引っ張られがちです。極力結果自体は見ずに、アセスメントの評価指標のみ参照しつつ、個人や組織の理想像を具体的に設定するとよいかと思います。

アセスメント実施後

 アセスメントを受ける個人の場合、多くの設問に回答して結果を確認。その内容に一喜一憂しておしまい、となってしまっているケースが多いと思いますが、それではもったいないですね。
 学生の定期テストなどと同じで、アセスメントは結果が出てからがスタートとなります。前述した通り、理想像とのギャップ分析を行って、自身にとっての問題の特定や課題設定、そこから具体的な取り組みに落とし込むことが大切です。

 アセスメントを受けた個人として取り組みを考える場合、私個人としては時間軸(取り組みの対象となる期間)を忘れずに入れておくとよいと思っています。多くの方は「何を」については考えると思いますが、そこでもう一歩踏み込んで「いつまでに」を設定する方は意外と少ないように思います。期限を設定するとぐっと自分事になるかと思いますのでぜひ、何カ年かの計画に落とし込んでいただければと思います。
 これは個人の性分にもよると思いますが、短期で一気に取り組む方が得意な人と、長期的に取り組む方がやりやすい方がいらっしゃると思います。各自のやりやすい形で取り組みに落とし込むことが、目標への到達確率を上げてくれるのではないでしょうか。

 組織におけるアセスメント結果活用についても同様です。
 自社の事業戦略への整合は強く意識する部分だと思いますが、事業責任者や育成責任者と会話しつつ、ステップ論に落とし込んで時間軸も意識した具体的な活動につなげていくことが必要になります。単年、短期では具体的に、中期~長期は抽象的な部分も残しつつ、定量結果となるアセスメント結果を見ながら、取り組み施策を考えておくことが大切でしょう。

企業においては長期目線での活用を

 冒頭に書いた通り、本スキル調査は20年以上も実施されています。
 企業での活用はそれぞれ企業の戦略に合わせて施策に落とし込まれていくかと思いますが、企業側でも中長期での活用も検討していただきたいところです。アセスメント結果、特に絶対値での評価だけなく、前年よりどうか、3年、5年前と比べてどうか、相対的に底上げがなされているのか、その間の自社の方針や育成の取り組みはどうであったのか、また、3年後5年後にどうありたいのか、そういった部分も含めて活用いただければ、本アセスメントを全国調査として無料で展開している意味も一層有意義なものとなります。

 夏も折り返し地点を回りました。秋から冬には各企業とも次年度の計画も立てることになります。そういった中で本調査(アセスメント)結果も、検討のインプットの一つとして使っていただければと思います。

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