人材育成コラム
リレーコラム
2025/3/21 (第180回)
自分のレーゾンデートル
ITスキル研究フォーラム 理事
日立建機株式会社 人財本部 人財開発統括部 主席主管
石川 拓夫
その変化を感じとった人たちが少なからず増え、私の話に聞く耳を持つ人も増えてきた。そんな中でその有志たちからリクエストがあり、人事・人財開発部門の中で勉強会を行うことになった。2月から3月にかけて4回(90分/回)にわけて実施している。参加者は毎回20数名。本来ならば4回とも受講いただいてはじめて全体像を理解していただくデザインなのだが、すべてに参加できない方には、録画を見てもらい、全体像を把握していただくようにしている。40数年の人事・人財開発の経験から得た教訓や学びは90分×4回でも足らないくらいである。
勉強会では、私が先生として正解を教えるのではなく、私が特に情報産業の人事・人財開発の経験から学んだ教訓を解説し、受講者には建設機械業界や日立建機、さらには自分の仕事に照らし合わせて、得るものがあれば取り込んでもらうという趣旨で行っている。私は研究者ではないので、等身大でお役に立てるのは、このやり方だと考えた。人によっては老人の自慢話と思う人がいるかもしれないが、そんな考えでやるつもりはないし、今のところそんな反応もない。少し早く情報産業で起きた人財に関する考えの変化やその対応は、いずれ自分たちにも訪れる、あるいはすでにやってきているが気が付かないだけだったという反応が過半である。引き受けてよかったと思っている。
勉強会に当たり、当然ながら自分のキャリアを振り返り、その時々にどんな変化に会い、どんな課題を突き付けられ、それをどのような対策で対応し、その結果がどうだったかをまとめた。まるで卒業論文作成のようであるが、大変良い機会をいただいたと感じている。
この振り返りで抽出・集約したテーマは、
市場価値×見える化×コンピテンシー×キャリア自律 = ハピネスの拡大
~時代に合った最強のOSとミドルとアプリを備えた人財の成長を支援する~
である。この4つのテーマを4回に分けて行っている。~時代に合った最強のOSとミドルとアプリを備えた人財の成長を支援する~
情報産業は、ドラスティックな技術革新や価格破壊、グローバル化の波に洗われ、その都度お客様のリクエストも激変し、それに対応する人財の価値も劇的に変化してきた。ITエンジニアはそんな環境に身を置き、無意識無自覚にキャリアサバイバルしてきた。リスキリングはしたほうが良いではなく、しなくては価値のない人になってしまう恐怖と闘いながら、管理職や専門職としてのキャリアを歩んできた。そんな中、ITスキル標準は、このキャリアサバイバルの灯台や羅針盤になり、画期的な役割を果たした。製造業には望めない面である。
情報産業では、人財の価値は世界標準化して市場価値となり、かつお客様から評価され、変化するものとなった。この変化の一方、日本型処遇制度は年功的要素が強く、人財の価値と処遇が合わなくなってきた。これが情報産業がいち早くジョブ型人事制度にかじを切った理由だと思う。また人財の価値は技術力だけではなく、コンピテンシーも含めたソフトスキルも対象になった。特にリーマンショック以降不確実で不連続な時代が深まるにつれ、価値創造が強く求められる中、これを実現する技術力とともに、コンピテンシー(≒行動特性)が注目された。価値創造にはハウツーの開発だけでは立ち向かえない要素がある。ここが明らかになってきたと思う。これらの対策を行うためには、まずは現状の見える化が必要だった。技術力だけではなく、コンピテンシーなども見える化して仮説検証する必要があった。データドリブンな取り組みの始まりである。また不確実で不連続な時代になって、働く人は生きる道を多様性に求め、キャリアの考えも大きく変わった。この時代を生き抜くエンジンとエネルギーは「自分の人生、自分が主役」と考え行動するキャリア自律である。今多くの企業が、キャリア自律促進はエンゲージメント、ひいては生産性向上につながっていると確信し、企業内でのキャリア自律促進を模索している。情報産業は、変化の厳しい環境だったからこそ一足早くキャリア自律を標榜せざるを得なかった。少し早く経験したものとして伝えるために選んだこの4テーマは、現在においても的は外れてはいないと思う。この勉強会を通じて多くの方が、これからの社会や会社や自分に少しでも役に立つ視座を獲得してくれればと願っている。
さて私は、この4月には65歳になることから、日立建機を卒業することになった。その後、籍は離れるが、引き続き日立建機の人事・人財開発を支援する予定である。日立建機だけでなく、私の経験や知見が人の役に立つのであれば、いくらでも提供するつもりである。希望する人には壁打ちの壁になるつもりだ。それが私のレーゾンデートルであり、喜びなのである。今回の勉強会であらためて強く自覚した次第である。
