人材育成コラム

リレーコラム

2025/7/22 (第184回)

新設が相次ぐ理系学部・学科

ITスキル研究フォーラム 理事
東京法令出版 取締役 デジタル事業部長

林 裕司

 2023年から始まった国の「大学・高専機能強化支援事業」の後押しもあり、理系人材、高度情報専門人材の育成を目的に、大学では今、理系の学部・学科の新設や定員増の計画が急増している。

 「大学・高専機能強化支援事業」の2023年、2024年の審査・選定結果を合算すると、理系・情報系の入学定員は2030年までに、再編等での転換を含み1.9万人ほど増加する計算となる(転換を除く入学定員の純増は7.7千人)。2024年と2025年入試での受験生動向に、理系学部の新設・定員増を受けた顕著な変化は見られなかったが、東京大学や上智大学、立教大学の学部・学科新設については、今後の動向に大きな影響を与えると考える。今回は、理系人材、高度情報専門人材の育成の観点について、東京大学と上智大学の設置意図からみることとする。


 東京大学は2025年4月4日、2027年9月に設立する学士・修士一貫型の新課程「UTokyo College of Design」について記者会見を開き、計画の詳細を明らかにした。同大学での学部新設は、1958年の薬学部以来、実に69年ぶりのことである。マイルス・ペニントン教授(東大大学院 情報学環)を学部長に充て、入学定員は100人、外国・日本人学生をそれぞれ50人程度とする。
 UTokyo College of Designは学士4年・修士2年からなる教育プログラムで、成績優秀者は5年での修了が可能。世界中から学生を集めるため、全面英語授業・秋入学が予定されており、藤井輝夫総長は「東京に国際的な学びの環境を作る」と意気込み、教員も世界中から集められる。学部と大学院修士課程を一体化した教育は、海外では一般化しているものの、国内では一橋大学や武蔵野大学など、一部の大学でしか導入されていない。大学院への進学志向が高い海外の優秀層を集めそうだ。


 UTokyo College of Designは「デザイン」を柱としつつ、既存の各学部の幅広く専門的な知識を織り交ぜたプログラムを提供。「デザイン」とは、銀行や食品流通、交通などの社会システムの在り方を考えるような「未来の社会そのものを作っていくという意味でのデザイン」(藤井総長)。年次に応じたカリキュラムが用意され、学問分野横断的な学びとしては、初年次に各学部の基礎に当たる内容を展開し、2年次以降で「Environment & Sustainability」(環境と持続性)や「Technology Frontiers & AI」(テクノロジーの最前線とAI)など5種類のカテゴリーを持つ選択科目を提供する。加えて、4年次には最大1年間の「Off-Campus Experience」が組み込まれ、海外留学や、企業・スタートアップでのインターンへの参加などの経験を積むことを要求する。構想は文部科学省に 申請中で、今後変更が生じる可能性がある。


 上智大学は2027年4月、理工学部に「デジタルグリーンテクノロジー学科」を開設する構想を発表した。持続可能なグリーン社会の実現を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)の重要性が世界的に高まるなか、世界人口100億人に迫る地球の未来を見据え、GXを牽引する人材を育成する。デジタルグリーンテクノロジー学科では、データサイエンスやデジタル技術を軸に、電気・機械・生物・化学など既存の理工学分野と複合的な学びを通じて最先端のエンジニアリングを学び「変革を起こす次世代のイノベーター」の育成を目指す。入学定員は50名。うち、約半数は留学生を予定。授業・試験・レポート・研究指導・論文執筆のすべてを英語で実施し、多様なバックグラウンドを持つ世界中の仲間と地球規模の課題に挑む力を養う。理工学部は2012年に英語による学位取得が可能なコースを開設し、世界中から学生が集まっている。


 デジタルグリーンテクノロジー学科ではこれまでのノウハウを活用し、「英語で学ぶ世界基準の理工教育」を発展・拡充することでグローバルな視野を持った人材を育てる。上智大学は新宿区の四谷キャンパスに全学部が所在しており、文理の枠を超えた学びの場を提供している。この新学科の入学時期は4月と9月の年2回。最先端のエンジニアリングの学びに加え、企業や自治体と連携したプロジェクト型学習やインターンシップ科目などを通じて、実社会での課題解決に挑む力を養う。


 東京大学、上智大学ともに、産学連携した「実践型教育」をカリキュラムに入れています。大学にとって、優秀な指導者の確保がキーとなっていることは言うまでもありませんが、合わせて民間企業がこれまで培ってきた教育システムを、大学生にも広げる機会となりえると考えます。現時点でのスキルレベルを把握するアセスメントの仕組みもさることながら、教育システムを大学に提供することも検討しなければならないと考えます。



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