人材育成コラム

リレーコラム

2025/9/22 (第186回)

不確実で不連続な時代に大切なもの

ITスキル研究フォーラム 理事

石川 拓夫

 最近、あるリーダー研修における講師からのフィードバックが、時節柄とても的を射ていて注目した。それは次のような受講者の行動特性の特徴に関する内容だった。

  1. マインドセットの固定化
     発想や行動が固定化されており、新しい発想や柔軟性に欠ける傾向がある
  2. Inside-outの思考
     内側から外に発信する「Inside-out」の姿勢で、外から内部を見る「Outside – in」の力が足りない
  3. マーケティング意識より、製品への誇り
     自社製品に対する誇りがあり、それに基づいて顧客へ価値を伝えようとする
  4. 顧客より競合会社への意識
     顧客ニーズを把握するより、競合の動向を優先的に意識している

(1)は組織の同一化圧力の指摘で、それが新しい価値創造や組織のアジリティを阻害している。それに疑問を持たない原因の一つは(2)の思考だろう。顧客起点や社会起点ではなく、自分たち起点でものを考えることにつながっている。これは(3)の行動特性にも色濃く反映している。それは言い換えれば(4)ということである。
 すべてのことが悪いわけではない。自社の組織や技術に誇りを持ち、それを支えに道を切り開く意欲は失ってはならない。ただ不確実で不連続な時代に、この指摘の行動特性で大丈夫かと問われれば、大変心配になる。

 自分たち起点でものごとを考え、いつのまにか市場や顧客のニーズと乖離し、改革しようにも柔軟性を失っている……。こんな企業の事例は、最近でも少なからず見受けられると思う。他山の石ではないが、社会の出来事に学ぼうという姿勢がある人はいると思うが、それを生かせる人は、多くはないのかもしれない。それ以上に組織の同一化圧力が勝っているのだろうか。

 上記4つの指摘の中で、一番コアな問題は、同一化圧力ではないかと思う。ダイバーシティを標榜し、多様性を組織運営に生かそうとする試みは、無意識無自覚なこの同一化圧力の前に形骸化していることが多いのではと思う。同一化された組織内では、その規範で動く人にとっては、居心地の良い場所になるだろうが、サスティナブルとはいえないと思う。世の中は変わり、市場も変わり、顧客のニーズも変わり、それも急激な変化の中で、これに対応する柔軟性を持たないと生き残っていけない。それは分かっているはずと思う。これに対処するためには、まずは(2)の視点を自らの意思で養うことだろう。

 個人の成長においては、客観的な自己理解→理想や目標との乖離を自覚→乖離を埋めるための具体的な取り組み→評価、のサイクルが必要のように、企業においてもこのサイクルは必要だと思う。そのためには客観的な自己理解がまずは必要だ。同一化圧力に負けずに、客観的な「外から内を見る目」をいかに養うか。これは人財開発の大きな課題の一つだと思う。


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