人材育成コラム
リレーコラム
2025/12/22 (第189回)
学校教育の現場から~教科書、紙かデジタルか~
ITスキル研究フォーラム 理事
東京法令出版 取締役 デジタル事業推進部長
林 裕司
【中学校、情報教育を扱う新教科創設へ】
文部科学省中央教育審議会の特別部会で、次期「学習指導要領」の「論点整理」(案)が了承されました。学習指導要領は、小中高校における教育の基準であり、おおむね10年に1度改訂されます。「論点整理」は、その学習指導要領の改訂の方向性を決めるものになります。この論点整理の後、学習指導要領の改訂作業に入り、次期指導要領は、2030年度頃に実施される見通しです。今回了承された論点整理の概要は以下になります。
- 大きな柱の一つは、授業時数を柔軟に調整できる「調整授業時数制度」です。現在は、一律的に各教科(科目)へ時数配分されています。例えば中学校数学は、1年生に140時間、2年生に105時間、3年生に140時間配分することになっています。これを次期指導要領では、学校ごとの特色や子どもの学びの実態に応じて時数を調整し、カリキュラムを編成できる仕組みを導入できるようにしています。画一的なものでなく、必要な教科、学習に時間を振り向けられる点は、現場にとって大きな可能性を開くものです。
- 注目すべきもう一つの点は、ギフテッドや不登校の子どもに向けた個別のカリキュラムを作ることができる制度の新設です。学びの多様化を現在よりもさらに推し進めようとするものです。
- AIやDXが進展する社会に対応するため、情報活用能力の育成を目的として、中学校の「技術・家庭科」の技術科分野と家庭科分野を分離し、情報分野を「情報・技術科(仮称)」として扱う方針も示されました。現在は、高校では「情報」という科目がありますが、小中学校にはありませんでした。学校教育において、情報教育が小中高で系統性をもって指導されておらず、また、学校による取り組みの差も大きいため、情報教育が十分とは言いにくい状況です。学ぶ内容としては、データの集計・分析、情報の伝わり方や影響、セキュリティー対策と法令の順守、生成AIの基本的な仕組みの理解やプログラム制作などが例示されています。
【2030年の机の上には……紙の教科書かデジタル教科書か】
文科省の検定を受けた検定教科書について、現在は、紙の教科書のみを「検定教科書」とし、デジタル教科書は副教材的な扱いとなっています。2030年の次期学習指導要領では、デジタル教科書も紙の教科書と同等に「検定教科書」として認め、検定や無償給与の対象としていく予定です。デジタル教科書も正式な「検定教科書」と位置づけられた場合、学校現場では、紙とデジタルをどのように使用していくのか。併用するのか、どちらか択一となるのか。この観点も文科省中央教育審議会(いわゆる中教審)で検討されています。
ここでは、アメリカ合衆国の教員を対象とした「OER・教科書使用状況」(2024年)の調査結果を紹介しながら考えます。
- ハイブリッド使用―60%が紙とデジタルの教科書を併用
紙の教科書のみ、または、デジタル教科書のみ使用すると回答した教員は、 19%、21%と少なく、ハイブリッド使用(併用)が最も多く、経年変化をみると、紙の教科書のみの割合が減少し、ハイブリッド使用が49%から60%に増大しています。デジタル教科書のみの使用は19%から21%へと変化が少ない結果となりました。中教審は、三つの形態の中から自治体の選択に任せるとしています。ここで疑問になるのが、財政面です。ある自治体がハイブリッドを選択した場合、紙の教科書代とデジタルの教科書代の両方を国費で負担するのかという疑問です。財政的な制約で、紙かデジタルかという択一にならないような実施が必要と考えます。 - 低学年と高学年、学年による使用の差異はあるか
アメリカ合衆国の調査では、低学年でのデジタル教科書のみの使用が12%、中等段階で25%となっています。ハイブリッド使用については学年による差はありませんでした。この結果からみれば、ハイブリッド使用を基本とすることが求められているといえます。
しかし、紙の方が「生徒がよく学ぶ」(57%)との調査結果となっています。近年、北欧では紙の教科書への回帰がみられます。学校現場の状況を十分検討したうえで、今後の教科書の方向性を決めていく必要があります。
資料:Bay View Analytics
「Conflicted Digital Adoption: Educational Resources in U.S. K-12 Education, 2024」
https://eric.ed.gov/?id=ED660316
「Conflicted Digital Adoption: Educational Resources in U.S. K-12 Education, 2024」
https://eric.ed.gov/?id=ED660316
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