人材育成コラム

リレーコラム

2026/2/20 (第191回)

AI時代の人財育成

ITスキル研究フォーラム 理事

石川 拓夫

 1月16日の日経新聞朝刊に「α20億人の未来 社長が若者に託すメッセージ」と題する記事があり、大変興味深く注目した。これは主要企業の経営者を対象に行ったα世代に関するアンケート調査の結果を基にしたものだ。
 この中で注目したのは、「これからの学校教育で重視すべきもの(最大3つ選択)」の項目。

 上位から3つ並べると、以下の通り。
  • 自分で考える思考力(84%)
  • 他者と協働するコミュニケーション力(71%)
  • 新しい価値を生み出す創造力(55%)

 これは学校教育で重視すべきものとして問われた結果だが、個人的には、このままAI時代の企業人に求められるコアスキルそのもののような気がする。社会人は、この経営者の回答にどう応えるのだろうか。自分は大丈夫と思う人は、多くはないのではと思う。

 「自分で考える思考力」は、正解のない不連続なVUCA時代に求められる最もベースとなる能力だと思う。そのためには幅広い視野や情報収集力・分析力が必要であるが、最も大切なものは、思考の基になる自律一貫した誠実さや倫理観だと思う。いかに思考力が高くても、ダークサイドに落ちてしまえば意味がない。

 「他者と協働するコミュニケーション力」は、デジタル技術が普及した現代において、ビジネスの取り組み方が変容している様を表していると思う。もう自社だけでビジネスを創出したり製品を開発したりする時代ではない。様々な専門性を持つ企業や団体、および人財とのプロジェクトベースでの協働が一般化しつつある証拠ではないかと思う。しかし企業内で垂直でしか仕事をしたことがない人にとっては、暗黙知を形式知化してコミュニケーションを図り、水平で仕事することは意外にハードルが高いのではと思う。

 「新しい価値を生み出す創造力」は、イノベーションを強く欲する現代に必要な能力といわれて久しい。特にリーマンショックの後、VUCAの様相が深まるにつれ強く求められるようになってきた。今でもこうして挙げられるのは、創造力を養うことはそう簡単ではないことを表していると思う。

 なぜこの記事に注目したかというと、AIの時代になって、企業内人財育成の領域の再定義が必要ではないかという思いがあったからだ。きっかけは生成AIの普及だ。どこまでが企業内人財育成の領域で、どこからが生成AIの利活用の領域か、見極めの必要性が高まっていると思う。現在私が支援する企業でも、この再定義に似た取り組みを行っている。

 その取り組みは、10年先の社会や市場、働き方などの変化を、今予測できる範囲で見据えて、それに対して来年度から始まる中期計画(3年間)でどんな打ち手をどこまで打つかを見える化する取り組みである。来年何を行うかというところから延長上で3年をとらえるのではなく、10年先からバックキャスティングする取り組みである。もちろん10年先を正確に予測する力はわれわれにはないが、変化の兆しを集め、仮説することはできる。これをベースにして、大きな施策から考えている。このような取り組みは、コンサル業界の人は得意とするところだと思うが、積み上げ方式が身に染みている企業では、苦手な人が多い。

 なぜこんな一見無謀な取り組みが必要かというと、それは人財育成には時間がかかるからだ。企業内人財育成の、特に前述のアンケートに挙げられたような人間力の育成は、短期では難しいからだ。
 例えば、将来の経営幹部候補育成など10年以上の計で臨む。今必要だから育成してほしいといわれても間に合わない。人財育成は、こんな特性の業務だからこそ、先を見据えた変化に対応した設計を今から挑戦する必要がある。

 AIの時代だからこそ、必要とされる能力がある。これを見極め、強化することが人的資本経営の時代になって強く求められてきている。表の体裁を繕うためではなく、真に企業が勝ち残るために求められている。この期待にどう応えていくかは、困難なテーマではあるが、人財育成担当者のやりがいではないかと思っている。

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