人材育成コラム

リレーコラム

2026/4/20 (第193回)

型になる仕事、型から価値を生み出す人

ITスキル研究フォーラム DX意識と行動調査 ワーキンググループ 副主査
株式会社ディジタルグロースアカデミア 代表取締役会長

高橋 範光

組織拡大に「型化」は不可欠である

 会社を創業し、この2026年4月でありがたいことに6年目を迎えることができました。その間少しずつではあるものの事業規模は拡大し、人員も増え、組織も拡大してきました。
 組織を拡大するうえで、業務の型化は避けて通れません。創業当初は個人の経験や勘に依存していた仕事も、人数が増えるにつれて、誰がやっても一定品質で回せるようにする必要が出てきます。作業手順を明確にし、判断基準をそろえ、再現性を高めるといった標準化があるからこそ、人が増えても品質を保ち、教育コストを抑え、組織として成長することができます。
 特にこの1年は自ら社員研修を行いながら、それまで「個人技」や感覚で行っていたものを少しずつ言語化してきました。うまくいった手法を体系的に整理し、手順に落とし込み、誰でも一定水準で実行できるようにする「型化」は、単なる効率化のためだけでなく、組織の安定と拡張性を支える土台と感じています。
 一方で近年は、型化された業務ほど生成AIに置き換えられやすいともいわれます。ルールが明確で、入力と出力の関係が整理された仕事は、AIが得意とする領域です。単純な問い合わせ対応や定型的な資料作成、週次で行われる情報整理などは、まさにAIによって置き換えられやすい代表例といえるでしょう。すると、「型化を進めるほど人が不要になるのではないか」という懸念が生まれるのも自然なことです。最近では、AIを起因とした人材削減といった記事もちらほら見かけるようになってきました。
 ただ、これは必ずしも矛盾するものではありません。問題なのは、「型化」そのものではなく、「型通りに動くこと」で“止まってしまう・終わってしまう”ことです。組織にとっては型化が効果的です。しかし、決められた手順を正確にこなすだけの役割に個人を閉じ込めてしまえば、その仕事は将来的にAIに代替されやすくなります。生成AI時代の人材育成を考えるうえで本当に問うべきなのは、仕事の型を覚えることだけではなく、型の先でどのような人材を育てるべきかだと思います。

育てるべきは「型をこなす人」ではなく「型から価値を生み出す人」

 では、今後育てるべき人材とはどのような人か。私の答えは、「型をこなす人」ではなく、「型から価値を生み出す人」です。
 これまでの職場では、まず仕事の型を覚え、ミスなく速く回せることが重視されてきました。もちろん、基本としてそれは今後も必要です。しかし、型化された業務を忠実に実行するだけでは、価値を出しにくくなります。そうした領域はAIが得意であり、代替もしやすいからです。だからこそ、人には別の力が求められます。それが「型から価値を生み出す力」です。
 では、その力とは何でしょうか。大きく三つの要素があると考えています。
 一つ目は、型をつくる力です。仕事を分解し、どこまでを標準化し、どこに判断ポイントがあり、何を手順として明文化すべきかを整理できる力です。併せて、その中で押さえるべき点や注意事項まで構造的に整理できることも含まれます。こうした力を持つ人は、単なる実務担当者ではなく、業務の構造そのものを理解している人だといえます。
 二つ目は、型を改善する力です。今あるやり方をそのまま守るのではなく、「この手順は本当に必要か」「AIに任せられる部分はどこか」「人が持つべき判断は何か」と問い直せる力です。これからの改善は、単なる効率化ではなく、人とAIの役割分担を再設計することを含みます。
 三つ目は、例外を扱う力です。顧客ごとの事情、現場の混乱、利害の衝突、品質責任や倫理の問題など、型通りでは処理できない場面は必ず残ります。AIが候補を示しても、最後に何を優先するかを決めるのは人です。そこでは、知識だけでなく、文脈理解や責任ある判断が求められます。
 要するに、これからの人材育成は「型を守れる人」を育てるだけでは不十分で、「型を設計し、見直し、必要に応じて再設計できる人」を育てる方向に変わるといえるでしょう。
 この考え方は、人材育成でよくいわれる守破離と似ているようで、少し異なります。守破離が個人の学びや熟達の段階を表す考え方だとすれば、ここで重視したいのは、AI時代において人がどのような役割を担い、どのように価値を生み出すかです。つまり、型を守るか破るかにとどまらず、型を土台に人とAIの仕事をどう再設計するかまで含めて考える必要があります。
 生成AIを活用するうえで、業務を構造で捉える力が不可欠です。AIに的確に指示を出すにも、出力の妥当性を見極めるにも、仕事を分解し、目的と条件を整理できなければなりません。今後の育成で重視すべきなのは、単純な作業スキルではなく、業務知識、構造化力、判断力、そして人とAIの役割を考えられる力の組み合わせといえるでしょう。

人材育成の目標は「代替されない人材」ではない

 このテーマでは、しばしば「AIに代替されない人材をどう育てるか」が語られます。しかし、本当に目指すべきなのは、AIに代替できない特別な人材を育てることではありません。AIを前提に、一人ひとりの役割を引き上げていくことです。
 すべての人が戦略人材になるわけではありません。今の役割の延長線上で、一段上の価値を生み出せるようにすることが大切です。定型業務の担当者なら、作業者で終わるのではなく、改善点を見つけられるようにする。改善を担う人なら、AI活用も含めて業務を再設計できるようにする。管理職なら、部門全体の役割分担と育成の仕組みを描けるようにする。こうした「役割の階段」を上れるようにすることが、これからの育成の中心になります。
 効率化で終わらせることなく、効率化によって生まれた時間を、顧客理解、改善提案、企画、判断、育成に振り向けられるなら、AIは人の仕事を奪う存在ではなく、人の役割を引き上げる存在になります。
 その意味で、今後の人材育成で重要なのは、定型業務を覚えるだけではなく、その仕事の意味を理解し、改善し、AIと分担し、最後に責任を持って判断できる人を育てることです。未来の競争力を決めるのは、型を守る人の多さではなく、型を扱い、更新し、型では届かない価値を生み出せる人の多さです。そこに、生成AI時代の人材育成の本質があるといえるでしょう。

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