人材育成コラム

リレーコラム

2026/9/24 (第198回)

学校教育とAI

ITスキル研究フォーラム 理事
東京法令出版 取締役 デジタル事業推進部長

林 裕司

 2026年現在、学校教育におけるAI活用は「実験期」を脱し、インフラとして定着する新たな段階に入っています。本稿では、今後数年を見据えたAI活用の方向性を整理します。

【校務では普及、授業では試行錯誤】

 文科省の資料(2026.6)によると校務でのAI活用は進んでいます。公立小中高の教員の過半数(55%)が生成AIを校務で利用しており、高校では約9割に達しています。「全く活用していない」学校は2年間で76.7%から16.3%まで減少しました。一方、授業での活用は38.8%にとどまり、教員のAIリテラシー不足や研修の不十分さが課題となっています。
 教員が掲げる主な懸念点は、セキュリティ(42%)、著作権リスク(41%)、ハルシネーション(37%)、専門家の不在(36%)などが挙げられています。

【今後のAI活用の方向性】

 今後重要になるのは、「AIを「思考の代替」ではなく「思考の拡張」として位置づけること」と論じる教育学者が多くいます。
 Fast AI(反復練習、即時フィードバック、個別最適化など、効率化が求められる場面で活用)とSlow AI(探究学習、対話的学び、メタ認知を促す場面で、あえて「遅さ」を設計し、生徒自身の思考を深める)。この使い分けを明確にしないままAIを導入すると、「学びが深まっていないことに無自覚な使い方」が蔓延するリスクがあると懸念されています。

【教育特化型AIと公共データの「AI-Ready」化】

 汎用AIでは学習や教師の専門性を支えきれないという課題に対し、文科省は教育分野に特化したAI の実証を進めています。教科書や教材のデータをAI-Ready化し、ハルシネーションや偏見を含む出力のリスクを低減し、教育現場で安心して活用できる基盤を築こうとしています。

【メタ認知の保護】

 また、生成AIに頼りすぎることで、自分で思考する機会が減り、「認知負債(Cognitive Debt)」と呼ばれる現象が生じる恐れが指摘されています。:AI使用後に「なぜその答えになったか」「自分の思考プロセスは何か」を振り返る活動を行い、さらにAI活用だけで完結せず、実体験や対話を通じた意味理解を伴う学習設計を行っています。

【問題点】

 「プロンプト職人」への依存、地域間(学校間)格差、イエスボット(常に同意する相手)への過度な依存、偏見・プライバシーなどの倫理的な面も問題点として挙げられています。

【取り組むべきこと】

 教育特化型AIの実現、教員研修の強化とともに、Slow AIによるメタ認知保護カリキュラムの開発が求められます。Slow AIを設計する原則は以下が考えられます。

  • ①「答えをくれない」制限を意図的に設ける。AIに直接答えを出力させず、問い返しやヒントに限定する。
  • ②AI出力と自説の「対峙」を必須化する。AIの意見と自分の考えを比較し、差異を分析する活動を組み込む。
  • ③プロセスを可視化・評価する。完成物ではなく、「問いの更新」「情報源の選択」「事実確認」「修正理由」を評価する。

【Slow AIと学習とを組み合わせた実践例】

最後に、Slow AI(答えをすぐに与えず、思考を促すAI活用)と学習とを組み合わせた実践例をいくつかご紹介します。

①「答えを言わないAI」による仮説立案支援

宮崎大学 中村大輝講師「仮説設定お助けくん」
設計思想
  • AIは直接の答え(仮説)を提示せず、「着眼点・ヒント・問い返し」だけを返す
  • 学習フロー
    1. 生徒が観察やデータから仮説を立てようとする
    2. AIが「この現象で注目すべき点は?」「どんな変数が関係しそう?」と問い返す
    3. 生徒自身が仮説の文章を書く
    4. AIが「その仮説を検証するにはどんな実験が必要?」と次の一歩を促す

この「あえて答えをくれない制限」により、生徒は「自分で考えるプロセス」をAIに引き出され、最終的にはAIなしでも仮説を立てられる思考の型を身につけます。


②「優秀な学びのパートナー」としての対話

四万十町立窪川中学校 上岡涼太教諭
AIを「Fast AI(電卓のように答えを得る道具)」ではなく、「優秀で、繰り返し、しつこくてもOKな学びのパートナー(Slow AI)」として位置づけました。
  • 学習フロー
    1. 生徒がまず自分たちで意見や考えを持つ
    2. AIに問いかけ、AIの意見を受け取る
    3. 教科書や資料と照らし合わせて吟味
    4. 「AIの意見は正しいか?」「自分の考えとの違いは何か?」を議論
    5. 再度AIに問い直し、理解を深める

このプロセスにより、生徒は「わかったつもり」にならず、自分事として深い理解に到達します。


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