人材育成コラム

リレーコラム

2011/12/16 (第22回)

企業側がもっとしっかりしないといけない

ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ 人事総務統括本部 人財開発部 部長

石川 拓夫

 先日の新聞に、大学が就職予備校化しつつある現状を特集した記事が出ていた。

 インターンシップ先からの学生の寝坊による遅刻の苦情に困惑する中堅私立大 学の職員。売りだった1年からの企業でのインターンシップを学生の未熟化を理 由に中止した大学。「オトナ学」を必修科目にして、社会人のモラルやマナーを 教える予定の大学などなど。文科省の補助金の後押しがあるとはいえ、大学が本 来の大学の使命を忘れて、就職予備校化(職業学校化)することの危惧が描かれ ていた。

 この記事で問題提起されていたことは、社内のSNSでも書いてきた私の課題 意識と同じであった。「一つの短絡的なわかりやすい正解を求める傾向が強く、 答えのないものを考え抜く力が失われている」懸念である。学問を通じて本来の 大学で培われるはずの考える力が敬遠され、大学の評価尺度が就職率や就職先に 集約されるようだと、これを目的化したものに大学資源が集中されてしまい、ま すます本来の大学の役割が失われていく。これはバランスの問題だとは思うが、 就職予備校化しすぎると、つまらない学生ばかり相手にすることになって、面白 味もなくなる。

 記事にはある人事部長の感想が載っていた。採用面接で「またその話か」と失 望することが多いと言う。アルバイトや資格取得など成果のわかりやすい体験談 ばかり聞かされるからだそうだ。「われわれは、答えのない問題に取り組んでい るのに、最近の若手は明確なゴールがないと走れない。大学ではどの分野でもよ いから学問の神髄に触れて、考える力を養ってほしい」と訴えていた。この気持 ちは大変共感する。

 ただこうなったのは、企業側が分かりやすい成果を重視したり、人事側の未熟 によってわかりやすいものしか評価しなかったからという側面もあると思う。学 生を通して聴く他社の採用面接や面接官のレベルは、ひどいものもたくさんある。

 記事では大学側の問題として書かれているが、個人的には企業側の問題でもあ ると考えてる。全産業で見れば、学生の人気が一部の企業に集中していて、内定 を取ることが目的化している。このため学生は、就職ノウハウばかり身につけて、 ビジネスの実践で本来必要とされるコンピテンシーやスキルを養わない。これで は日本の社会の足腰が弱くなる。

 市場原理から言えば、企業側がこのような学生をきちんと見抜ければ、彼らも 求められるものに気づき、この価値観によって市場が変化するはずである。現在 上記のような憂慮すべき事態が進行していることに、企業人、特に採用責任者と して、その眼力を磨く必要性を改めて強く感じている。

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