人材育成コラム
リレーコラム
2012/02/15 (第24回)
ITエンジニアに未来はあるか?
ITスキル研究フォーラム 理事
フロネシス経営研究所 主宰/富士ゼロックス総合教育研究所 アドバイザリーフェロー
出馬 幹也
その問いには明確な答がある、と私は思う。それは、「未来を創る人には未来 があり、創ろうとしない人には永遠に未来など来ない」ということだ。
ITは、多くの人手をかけて必死に動かすこと、そうでなければ動かせないこ とを、いとも簡単に動かす手助けをしてくれる。専門家でなければ下せない高度 な情報収集と分析を、瞬く間に行いながら、次に人々がたどるべき方向性を示し てくれる。ITエンジニアとして働く多くの人々の中ではもはや、何となく進め ている仕事であるのかもしれない。しかし、その仕事が生み出している「社会的 価値」。その大きさたるや、少し前の時代には想像だにできないほどの恐ろしく 偉大なことを成し遂げている職種なのである、と言っても過言ではない。
世のITエンジニアは、仕事に直面しながら生きてきたと言える。否、その表 現は少し高級すぎるかもしれない。むしろ、業務に没頭してきた、と称されるべ きかもしれない。顧客やプロジェクトリーダーの指示・命令を是として、とにか く目前にある業務に没頭…。それがいつのまにか懸命な尽力、徹夜の連続、さら には何時の頃からかの“作業への埋没”へ…。表現する用語に、ネガティブなも のが増えてきてしまう。
はて?先に見たとおり、恐ろしく偉大なことを成し遂げている職種であるはず のITエンジニアが、ポジティブとは逆のネガティブに染まった日々を送ってい るとは…。何かが、どこかがおかしいのではないだろうか?
まさに、ITエンジニアを取り巻く環境には、正常とは言えない状況が続いて いる。特に、仕事環境としての職場のありよう。そこには、“夢”が決定的に不 足している。徹夜と埋没はあっても、夢や希望はとても望めない職場。手戻りや もぐら叩きはあっても、ビジョンや理念などが全く口にされることの無い職場。 これらは極端な言い方かもしれない。しかし、当たらずとも遠からずの、このよ うな職場があふれる状況を、私たちはとても見過ごすことができない。
アーキテクチャーやプログラミングの技法一つひとつをすべて新たに創造する ことなど求めてはいない。世にすでに在るものを活用してでも、求められている ことに応え、できうるならその要求水準を少し超え、良い意味で期待を裏切るよ うな社会価値を提供する。それがITエンジニアにできる最大の貢献であるはず だろう。
ITエンジニア、あるいは彼ら彼女らを支援する私たちのような者の努力で、 そのような職業観を取り戻したいと思う。
この文脈では少し違和感があるかもしれないが、PDCAという概念を用いて 考えたい。今のIT業界にあふれるのは、DOである。言葉を変えれば、業務、 あるいは作業、ということになる。その必要性を私は否定しないし、価値はそこ から生まれるという観点で重要性も認める。しかし、それはあくまでもPDCA の4つのステップのうちの1ステップでしかない、ということも忘れずにいたい。 ITエンジニアはDOのためだけに生きているのではないのである。PLANも つくり、DOのあとには自らCHECKに入り、思い切った改善や改革を含め、 ACTIONを練って実行すること。それらのすべてがITエンジニアの役割に は含まれているのだ。
未来を自ら創造しようと思う人は、PDCAサイクルを通じて、当初期待され なかったような価値を具現化していくことだろう。逆に、未来の創造など自分の 責任範囲ではないと勝手に自己の限界をつくる人には、PDCAサイクルは視野 にも入らず、気づかないうちに何度となく作業への埋没パターンを繰り返し(厳 しい言い方だが)、自分の人生すべてをそのようなパターンに染め上げてしまう。
さあ、読者の皆さんは一体、どちらの選択肢を選んでいかれるか?
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