人材育成コラム

リレーコラム

2012/05/17 (第27回)

「専門性」のとらえ方について

ITスキル研究フォーラム 理事
フロネシス経営研究所 主宰/富士ゼロックス総合教育研究所 アドバイザリーフェロー

出馬 幹也

 私は現在、iSRFの調査研究部会に参加させていただいている。主査の日立 ソリューションズ・人材開発部長の石川さんや、論客である日本システムウエア (NSW)・執行役員人事部長の西郷さんとのお話は本当に示唆に富むものだ。 その中でも話題となった、「専門性」ということについて、このコラムでも少し 取り上げてみたいと思う。

 ITエンジニアにとって専門性といえば、個別の開発業務などに密接に関連す る問題解決の能力であることは世の常識といえる。しかし、そのような“考え方 =思い込み”があるばかりに、ITエンジニアは自分自身の能力や適性、ひいて は人生をかけたキャリアステップまでも、IT業界に閉じた(閉じ過ぎた?)も のにしてしまってはいないだろうか。

 NSWの西郷さん曰く、「ここ暫く広報や人事業務に深くかかわり、統括され てきた中で、かつてSEとして培われた経験や能力(=論理思考)が確実に生き ているとの再確認ができた」ということである。たしかに、SEという職業を、 コンピュータを動かすソフト開発の仕事ととらえるか、求められていることが何 かを構想し、論理思考を用いて具体的に何かを作り上げる仕事ととらえるかによ って、自らが培っている能力をとらえる幅が違ってくるのである。

 ソフト開発として捉えると、そこで用いる知識やスキルは汎用性が乏しく見え かねない。しかし、上記・後者のように論理思考というとらえ方を交えることに よって、他の業界・職種にも当てはまる。それどころか、今まさに必要性が叫ば れているコンピテンシーが、SE自身が鍛え、伸ばそうとする能力の中に見えて くるようになる。

 これまでIT業界の中では、スキルアップこそが大事。「知識と技術を学んで、 資格を取得せよ」という話法が多すぎたのだ。その発想(思い込み)から変えて いかなければ、いつまでも「ITエンジニア」のままで居続けることを良しとし てしまう。クライアント企業が求めているのは「ビジネスパーソンとしての自覚」 であるはずなのに…。

 論理思考に強いことは一つの立派な専門性である。人間関係を構築していく力 や、とにかくまず動くという実行力・突破力などの方面に強い人材も存在する。 それぞれが持つ適性(強み・長所、個性)ともいうべき専門性を組み合わせた “チーム”を形作ることが、成果を創造する組織の本質である。

 繰り返すが、キャリア開発を進めるという個人ニーズに照らしても同じである。 専門性を狭くとらえ過ぎることで、キャリア目標そのものを狭めてしまうのか。 それとも、自分がITエンジニアとして培った経験・能力を広く深くとらえるこ とで、将来の可能性を大きく拡げていくのか。一体どちらが望ましい道だろう?

 専門性を、適度なひろがり感を持ってとらえていきたい。

人材育成=専門性向上=知識・スキルアップ

と安易に称されるIT業界の現状に、「一石でも投じることができれば」と思う。

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