人材育成コラム
リレーコラム
2012/06/18 (第28回)
「私は顧客です」
ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ 人事総務統括本部 人財開発部 部長
石川 拓夫
「自分は顧客である」
という学生が出現した。今年2人目である。昨年まで出くわしたことが無いので、 なにかの現象かと思ってしまう。
この学生から大変明確に説明をされた。
「自分は顧客の立場である。だから面接官の方の話を聞いて、自分がこの会社と 一緒に仕事したいなと思わせてくれるなにかがあれば選びたい」
こう、はっきり言われた。面接官にプレゼンでもしろと言っているのだろうか。
論旨の通ったたいへんクレバーな学生である。志も語ることができ、アイデア も豊富である。大変優秀で非の打ちどころがない学生に見えるが、このスタンス だけはひっかかる。
やはり、まず自分が選ぶ立場というスタンスが無意識にある。無意識なので嫌 みがない。本人も面接官に失礼なことを言っている感覚は全くなさそうである。 そうなると、これはこの学生の常識的なスタンスと言うことになる。これが常識 化しているということは、日常生活の中で常識化をしたということであり、そう すると彼女だけではなく、周囲も同じコモンセンスを持っている可能性があるか もしれない。
相棒の面接官は、初めてだったので苦笑いしていた。終わった後で「最近の学 生はあんなことを言うの?」と思わず聞いてきた。この幹部にとっても、理解す るというよりも驚きであったようだ。まあ50歳代の幹部の感覚は、私も含め同 じような感覚なのだろう。
そうすると、ベースが明らかに異なることになる。異なるベースをどうジャッ ジするか、難しいところである。
この学生は営業希望である。営業希望であれば、いずれかの会社に入って営業 職に就くと、上記のようなスタンスとは真逆になる訳である。営業職と言う仕事 が分かっているならば、このようなスタンスは取らないと思うのが我々世代で、 学生にとっては別のロジックがあるのだろう。
でもそんなに簡単に入社後チェンジマインドできるのだろうか? これが不思 議である。
このようにベースが異なる話は、実はいたるところにある。例えば「会社では やりたいことがやれるか」にこだわる学生は多い。よく聞いてみると、「やりた いことがある訳ではなく、嫌だったらそこをやめて他の部署に行けるか」という 視点だったりする。
両方に共通するのは、ステークホルダーの存在に関する考察の欠如だろう。前 者の場合、相手である面接官の心証いかばかりかに対する思いは皆無であり、後者 は相手にも希望や選ぶ権利があるという当たり前のことに関する理解の欠如であ る。力量も無いものを喜んで受け入れる部署はない。
自分の立ち位置や希望などがかなうかどうかだけが考察の焦点で、相手の評価 によっても左右される双方向の関係であることに考えが及ばない。異動の話も、 「相手があなたを望まなければどうしますか?」というと、ほとんどの学生はキ ョトンとする。
この学生にコミュニケーションが得意だと言われても、面接調書に「?」と書 かざるを得ない。このギャップは面接官には相当こたえるものである。
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