人材育成コラム

リレーコラム

2013/02/18 (第36回)

若者よ、大志を抱け!

ITスキル研究フォーラム 理事
フロネシス経営研究所 主宰/富士ゼロックス総合教育研究所 アドバイザリーフェロー

出馬 幹也

 企業組織の大小にかかわらず、サラリーマン的な立場で働く若者(20代から 30代前半)たちに、決定的に欠けていることがある。それは、『自分達には、 組織を変えていく力がある、と信じる確信』である。このように記すと、「そん なこと無理だよ、信じろといったって…。実際に頭を押さえつけられている毎日 を送っていて、信じられるわけはないだろう」などの声がいまにも聞こえてくる ようだ。しかし、事はそんなに単純なものでもなければ、むやみに棄却してしま うべきものでもない。

 組織経営に責任を持っているのは、疑う余地もなく、その組織の経営者であり、 トップの権限移譲を受けた中間的な組織管理職(部長・課長等)である。しかし、 彼ら・彼女らに決定的に欠けるものがある。それはまさに、現場実務への理解、 という点だ。
 若者は現場実務を理解している。お客様が今何を求めておられるか、自社の何 がそのニーズに適合し、何がすでに合わなくなってきているか、ということを含 めてよくよく理解している。若者は同時に、自分たちが理解し、きちんと報告し ている“中身”を、上司(管理者)たちが理解してくれているはず(否、理解し てくれているべき)と考えてもいる。…そこだ。問題はそこにある。

 上司たちは現場実務の何たるかを、若者と同じレベルでは絶対に理解できない。 考えてもみてほしい。上司の営業同行やプロジェクトミーティングへの参画など の機会があったとしよう。その直後は理解度は確実に上がる。勘の鋭い上司は、 お客さまをはじめとして、参加者の思いの合致度合までを克明に理解し、担当者 (若者)に次どう動くべきかの有益なアドバイスまでをくれるであろう。しかし、 上司は毎回そのような場に同席ができない。なかんずく実務の進捗への理解度は 減退する。もちろん、報告書には目を通している。組織の責任者であるが故に、 でもある。それでも、やはり理解度は減退を続ける。若者が期待するレベルでの 理解をしてくれなくなる。それはなぜか?
 経営者や管理者は、優れた人材であればあるだけ、今起こっていることを考察 の材料として捉え、この先どうなっていくか、自分達はどうすべきか、というこ とに、より重い比重で関心を向けている。ということは、若者からの報告書もそ のような観点で読まれているのであり、実務上の判断、すなわち、昨日どうすべ きだったか、今日どうすべきか、に目を向けて読み込もうとはしていない。プロ ジェクトのリーダーやマネジャーであればそのような読み方をすべきであろうが、 部長・課長のような組織管理者であれば、先のことに意識を向ける人材のほうが 多い。

 若者は、自分たちのことを分ってくれているか・いないか、という思いに拘り がちである。しかし、それが高じて、上司は報告内容を理解してくれていない、 自分たちがほしい声かけをしてくれない、という”くれない族”になってしまう のでは、“百害あって一利なし”なのである。むしろ上司の関心事に意識を向け、 プロジェクトを具体的にどう進めていくかは、先輩社員やプロジェクトマネジャ ーとの間で相談しながら対応していくと決める。そして、組織管理者や、たまに 意見交換の場がある経営層に対しては、組織全体の行く末ということに的を絞り、 自分自身の意識を、実務から経営にまで拡げ、”提言”を織り込んだ意見を述べ るようにするべきなのである。聴く耳を有した経営者・管理者であれば、若者の そのような努力を前向きに受け止め、身を乗り出して対話に応じてくれるはずだ。 しかも、実務をよく理解できていない自分自身の至らなさに、何か光明を投げて くれるような感覚も併せて、である。

 このように記すと、経営にまで意識を拡げてという点が難しい、とコメントが 返ってきそうである。簡単なヒントを記したい。お客様側の責任者など、社外の 目線に立って、自社の取組や提供しているサービス、その価値について考えてみ るのである。仕事を自分たちから奪っていく可能性のある競合他社の管理者の立 ち位置でも良いだろう。その視点に立つなら、「会社としてどうあるべきか」と いうシナリオは意外にも簡単に描けるものだ。
 難しいことがあるとすれば、これまで現場で進めてきたことの、何を変えてい く必要があるのか、を明確化すること。すなわち、自分たちが慣れ親しんだこと をどう変化させていくのか、という“身を削る”類の方法論を考えることだろう。 そこにこそ若者としての強みが生かせる。現場実務を知っているからこそ、どう すればよいのか、何から始めていけば上手くいくかがイメージできるからである。 実務を分りきれていない経営者・管理者が描けない・示せないのは、まさにその 点だということを私は申し上げたい。

 責任者なのだから会社を変えていくシナリオも何もかも、経営者・管理者が示 すべきだ、という主張はよく現場からなされる。一面正しいが、半面その可能性 は低い。むしろ現場実務を良く知る側から、経営者・管理者に“ありがたい!” と言わしめる形(表現、タイミング)で提言していくことこそ優先すべきである。
 大志を持つ若者たちによる、気持ちの良い突き上げが、閉塞感漂う時代に変革 の種を植えつける。私はそのような事例を多数目にしている。また、そのような ボトムアップを前向きに受け止めることができる経営者・管理者を増やすために、 各界で働く同志とともに日々尽力を続けている。
 これからを担う若者たちの、一層の奮起を期待したい。

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