人材育成コラム

リレーコラム

2014/09/17 (第55回)

スマートシティ/スマートビルディング

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG 委員
シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス シニアパートナー

八子 知礼

 前回、シスコの八子として書かせて頂きました。あれから数カ月、馴染んできたと言うよりも既にガンガンにやらせて頂いており、複数のプロジェクトも走っています。最近のトピックで前回申し上げたIoE(Internet of Everything)がらみで旬な領域があるのでご紹介しましょう。それはスマートシティ/スマートビルディングです。

 「え、ICTじゃないですって?」、とんでもない。めちゃめちゃICTが関係ありまくりなんです。背景としてはご存じの通りオリンピックに向けて残り5年半しかない中で、国内はまさに建設着工ラッシュという実態があります。建設のみならず道路看板や標識の整備、観光ガイドの刷新や銀座や日本橋の様々な商店の方々がこぞって英会話を習いに行くという昨今。5年半はあっという間に過ぎゆくことでしょう。

 そんな中、デベロッパーやゼネコンとお話をすることがとても多くなっているのが、新しく建築するビルやホテル、複合施設の相談なのです。前述の通り空前絶後の着工ラッシュに湧く建設業界にとって、さぞかし左うちわで相談の必要などなかろうと考えがちです。しかし、幾つかの観点でICTに長けたコンサルタントに相談しなければならない領域があるわけです。今回のオリンピック特需は人口が減りゆく日本にとって最大でおそらく“最後の”ハコモノ設備投資になるだろうと、どの企業も薄々考えています。またハコモノを作ってオリンピック後にゴーストタウンになってしまっても意味がないわけです。よって、いかに開発する都市が、ビルが、ホテルが、複合施設が、サステイナブルに人を魅了し続けることができるのかにフォーカスが当たってきています。かつてハコモノを作りまくった建設業界にもそのような風が吹き始めているということでしょうか。

 その際に重要なのは、その都市、ビル、ホテル、施設を利用する様々な人(訪問者、居住者、テナント、運営者)に対してどのような快適なサービスを提供するのか、という視点です。オリンピックの場合には競技者、大会関係者、観光客、ボランティアなどの人も加わります。ここまでであれば、通常のビル建設などとあまり変わりないと思われるかもしれません。ここからがポイントなのです。

 たとえば、街全体、ビル全体を「スマートフォン」のようにとらえてみましょう。ハードウエアだけだと陳腐化していきますが、アプリケーションやソフトウエアを利用し、更に必要に応じて後から追加していくことで、本来のハードウエアの陳腐化するサイクルよりも遙かに長い期間使えるようになります。これと同じことを街全体、ビル全体にICTの力を使って施そうというのが、スマートシティ/スマートビルディングの考え方なのです。

 都市やビルに備わっていなければならなかった基本機能は、今までは電気・ガス・水道・空調などの設備とせいぜい通信ネットワーク、加えてほんの少しの監視カメラといったもの。それらを独自のプロトコルで、トータルに制御するビルマネジメントシステムで運営されて来たことが多い時代がありました。ところが海外のスマートシティ/スマートビルディングでは、都市基盤全体がネットワークに繋がれています。高密度なWi-Fi環境と多数のカメラ、多数のデジタルサイネージ、多数のビデオ会議システム、仮想化された都市空間案内マップ、仮想化されたコンシェルジュ、テナント向け/居住者向け/オフィスワーカー向けの多数のアプリケーションやマーケティングシステムなど。これら全てをIP網に統合して実装することで、都市開発時のそれらICT投資が多少高額になったとしても、上位レイヤのサービスで儲けて回収すれば良いという発想で、結果と して安価にスマートな街を実現しています。

 シスコはこの手法で、グローバルに30以上のスマートシティをご支援してきた実績があり、それを聞きつけたデベロッパーやゼネコンからの相談が増えているわけです。ここで重要なのは、もちろんそんな話がSIerやソフト開発に長けてもいないシスコだけで実現できるわけではないということ。むしろ相当な量のICTの開発実装案件が存在しており、アイデア次第で様々なICTの可能性を秘めています。バックエンドはクラウド、フロントはモバイル、上がってきたデータはビッグデータ分析対象ですし、活用段階ではアプリケーション連携が必須です。こうした複合的な予算を想定していないことが多いので、その予算を捻出してもらえるよう、ICT業界で丸ごと狙いに行く話かと考えています。またそれらを実装した際の統合運用環境も求められるので息の長い案件になります。

 こうした時流を感じ取るスキルもさることながら、異業種とのコンバージェンスが進む中では、積極的に他業界のスキルを吸収して、より複合度の高い案件を既出ICT技術との組み合わせでスマートに解決して行くことが求められます。また、ステイクホルダーも多岐にわたり、プロマネとしてのスキルも相当なレベルが求められます。ポイントは、いかに難しいことを未来を予測したICTでわかりやすく解決するか、です。その意味ではICTだけでない10年後の世界観を常に考えておくのは一つの重要なスキルと言えるかもしれませんね。


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