人材育成コラム
リレーコラム
2015/02/17 (第60回)
ITベンダーの人材開発担当者にふさわしい知見とマインドとは
ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ CSR統括本部 本部長(ブランド・コミュニケーション担当)
石川 拓夫
こんなニッチな研修はニーズがあるのだろうかと最初は懸念していたが、賛同企業が意外に多く、第1回の研修を開催できた。考えてみれば1社ではこのような研修は難しい。OJTでといっても十分な組織がない中、伝承できる人材もすでにいない。一方で人材開発の課題は、高度化・複雑化してきている。そんな事情が各社共通していたようだ。
また、受講者の多くが、ついこの間までSEや営業で現場にいた方たちだ。突然の辞令で人材開発担当となった人たちである。よるべき基礎がない中で、いきなり教育体系の刷新や、超上流人材育成など経営が要求する育成上の課題を考えたりすることは、たいへんな困難が伴う話である。まさにここにこの研修のニーズがあった訳だ。
内容としては、IT業界における経営課題、人事・人材開発の役割・歴史とその背景、技術革新の歴史、人材開発の要諦、スキル標準の活用方法、施策実施に向けたステークホルダー対策などたいへん実践的な内容だ。知識や理論を座学で吸収し、ワーキングで共有してさらに理解を深め、最後にはケーススタディで(架空の)ITベンダーの人材開発施策を立案・発表するものだ。
一緒にワーキングなど行ってみて、講師として受講者全体の印象は、
(1)使命感は強いが、人事・人材開発の基礎知識が乏しい
(2)業界全体を経営の視点で俯瞰した経験があまりない
(3)人材開発担当者の責務を狭く考える傾向がある
(4)経営感覚よりも現場感覚が強い(現場の課題には精通している)
などである。
ついこの間まで現場にいたのだから当然だが、このままでは人材開発担当者として、経営の意図を汲み、かつそれに反することの多い現場を納得させる施策の立案はハードルが高いことだろうと思う。やはり裏付けとなる基礎的な理論は必要であり、また経営者と現場双方の課題認識を可視化する分析力と表現力も必要になるだろう。
なによりも、多くのステークホルダーの様々な意見に対して、ぶれない軸をもってして説得する意思と情熱も必要だろう。その軸を作るためには、様々な知見や事例に触れ、ベンチマークし、自社の課題に対して自分で考えぬいた解を持つことが大切になる。この成熟期間が不十分だと、自らスコープを狭くして、仕事をやったつもりになってしまいかねない。
だからこの研修では、持つべき視野の範囲、考慮すべき範囲、着手すべき点と方向性、臨む姿勢など、ノウハウよりはむしろITベンダーの人材開発担当者としてふさわしい知見とマインドを伝授することが重要だったと思う。
さて、研修終了後の受講者の言葉を聞くと、人材開発担当者の役割の重要性と取り組み姿勢が学べたことや、裏づけとなる理論が学べて自信が持てた、最新の動向やその取り組みの方向など学べて参考になったと言う声など多かったが、注目すべきは、各社の人材開発の課題が共通していることの驚きと、だからベンチマークできる同志に出会えてよかったとする声だろう。さっそく受講者の1人が手を上げて幹事がきまり、次の情報交換会の実施が約束されていた。
実は我々講師陣も10年以上前からそうしてお互い切磋琢磨してここまでやってきた。彼らもここから得るものは大きいだろう。人材開発担当者のネットワーキング、これが受講者の一番の財産になったようである。
現在人材開発の課題は社会情勢の変化とともに複雑化・高度化している。個人的には、1社で取り組むよりも、共通する課題はその取り組み状況を共有してブラッシュアップすることが、有効でありかつ大切な時期になっていると思う。
確かに各社の取り組みの違いは競争優位確立の源泉だと思うが、今顕在化している課題に対しては、1社の試行錯誤では解決へのスピード感が出ない。多くの試行錯誤の結果検証が必要だと考えている。状況はスキル標準が発表されたときに似ている。古くて新しいテーマである。この研修がまいた種が、いずれ大きな花を咲かせてくれれば幸いである。まるで春を待つような気分である。
この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム)