人材育成コラム
リレーコラム
2015/09/25 (第66回)
IoT時代に求められる10カ条のデジタル化スキル体系
ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG 委員
シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス シニアパートナー
八子 知礼
前回にも書いたように、デジタルは形も重さもなく時間や場所も超越します。IoT(モノのインターネット)の時代にはモノ(アナログ)がインターネット(デジタル)に繋がる際に、ボトルネックになり得るのはアナログの世界です。アナログ世界は常に動いていて止めることは出来ませんが、デジタル世界は常に動いていても並列で記録・停止・再生・シミュレート・リアルタイムフィードバックが可能です。
ここにデジタル化する際の我々リアルなアナログ世界に住む人間にとってのデジタル化に際して要求されるスキルが必要となってきます。普段何の気なしに実施している事も多いのですが、あらためて棚卸しをしてみると、デジタル世界ならではのスキル体系が見えてきます。以下に10カ条のデジタル化スキル体系についてまとめてみました。
1) 仮説立案・イメージするスキル:ある事象をデジタル化すれば、そこから何が変化し、どうなるのかの複数の仮説やシナリオが立案でき、当たるかどうかは別としてイメージ(頭の中で軽くシミュレーション)できるかどうか。
2) 結果を予測するスキル:仮説立案と近しいが、複数のシナリオを遷移した結果として、どうなりそうかその結果を予測することができるかどうか。
3) システム型思考するスキル:ものごとをインプット/プロセス/アウトプット、およびリソース(人・モノ・金・情報)、結果品質、実現する価値、リスクと回避策といったシステムとして分解して考えることが出来るかどうか。これができないと次のデジタルモデリングができない。
4) デジタルモデルリングするスキル:前述のシステム型思考によってモノゴトを分解した後、それをデジタル環境/IoT~プラットフォーム~アプリケーション上に複雑化せずにモデリングすることができるかどうか。(実際の実装自体はインテグレータなどに任せても良いが、モデリングできないとそもそも要件が定義できない)
5) シナリオ毎にシミュレートするスキル:複数の仮説とシナリオを事前に仮説として立案しておいたが、それについてデジタルモデルの上で実際にパラメータ設定を行いながらシミュレートすることができるかどうか。自社のみならず取引先まで含めてできる限り広範な領域をデジタルモデル化して実装し、より広範なデータやパラメータを設定することができるかどうか。(※GEではこれをデジタルツイン“リアルに対するデジタルの双子”と呼んでいる)
6) 結果を分析するスキル:デジタルシミュレーションから上がってきたデータをもとに、事前の仮説とどこまで一致していたか、更に他のデータとクロスで分析した際に新たな示唆が得られるかどうかを分析・検証することができるかどうか。(ここで言う他のデータとは、IoTによってこれまで取得できなかった新規に得られたデータか、もしくは自社が保有し得ないデータ=購入する第三者提供データのことを指す)
7) 結果からリアルタイムにフィードバックするスキル:実は一番難しいスキルがこのスキル。ほとんどの場合、分析した結果有意義な示唆が得られていても業務オペレーションの現場では全くと言って良いほど活用されていない。デジタル世界のままで留まってしまうのだ。今度はアナログ世界に対して、失敗が許されない止まらない世界に対して自動化などを含めた多様な手段によってできる限りリアルタイムにフィードバック出来るかどうかが試される。
8) 新しいプロセスに人を巻き込むスキル:リアルタイムフィードバックを実現しようとすると、既存の業務体系を大きく変え、ICTによって自動化すべきプロセスが更に増え、人は今までとは異なる業務を行わなければ成らない可能性が高い。その業務設計や意思決定プロセスの変化に対して、周囲の人を巻き込むことができるかどうか。ICT目線の、デジタル世界のままで終わっていては人を巻き込むことは出来ないし、自分の仕事ではないと割り切った時点でここまでの一連の流れは突然死を迎えることになる。
9) 新たなビジネスモデルを設計するスキル:新たな業務を設計した後に着目すべきは、それをバリューチェーン全体にわたって展開していくと共に、展開した後でどのようなビジネスモデルに変化するかを予測して、展開途中でビジネスモデルを変えてしまうための新たなモデル設計に発展させることが出来るかどうかである。全体最適を視野に入れれば、局所的な取り組みを発展させようとすると自ずと“系”全体を見直さなければならなくなるからだ。
10) スケールするプラットフォームを構築するスキル:“系”全体を見直し、新たなビジネスモデルにシフトするにあたり、毎回同等のコストをかけてこのようなことに取り組むことはアナログ時代となんら変わりないと言える。重要なのは複数の新ビジネスモデルを水平展開したとしても、追加で過剰なコストや労力がかからぬよう、ベース部分をプラットフォームとして共通化しておき、その上に追加分のみ載せていこうとする発想が出来るかどうか。
以上、10カ条について述べてきました。これらはアナログ世界に共通している事項もありますが、総じてそれらにはリアルタイムなのか、シミュレータブルなのか、スケーラブルなのかが付随していることが読み取っていただけるのではないでしょうか。
今からの時代、これまでのスピードやスケールを上回る速さや規模でモノゴトがデジタル化していきます。その大海の中でおぼれぬよう、上記のようなスキルや視点を個人的に、そして組織的に身につけておくことが必要だとあらためて認識する最近の日々です。