人材育成コラム

リレーコラム

2015/11/20 (第68回)

これからのビジネス変革の必読書BABOK V3活用の勧め

ITスキル研究フォーラム 理事
アイテック 顧問

福嶋 義弘

 2015年3月17日発信の人材育成コラムでIIBA、IIBA日本支部(以降日本支部と称す)、BAやBABOK(ビジネスアナリシス知識体系ガイド)について紹介した。その際に今年4月にV3が公開されることを案内した。BABOK V3は4月15日にIIBAより公開され、日本支部は日本語版出版を目的に翻訳およびIIBAとの出版に関する調整に入った。翻訳も順調に進み11月2日よりBABOK V3日本語版を出版する運びとなった。本コラムではV3の概要を紹介し、各社の企業変革へのツールとして活用することをお勧めする。

 BABOKはV2からV3へ、時代の変化に対応してITに限らず事業の価値を如何にして創出していくのかを体系的に捉える知識体系に変貌を遂げたのである。

 大きな変更点は次の4点である。

(1)V2はステークホルダーの要求を正しくプロジェクトに反映させるかに重点が置かれていた、すなわち「プロジェクトの成功(戦術)」を目的にしていた。しかしプロジェクトでいくらソリューションを正しく作ったとしても、それがビジネスを成功に導くとは限らない。ビジネス価値は、プロジェクトの運用時において価値が生じるのであるV3では運用時におけるビジネス価値まで責任を持ち「ビジネスの成功」の戦略視点まで知識体系範囲に拡大した。

(2)ビジネス価値を提供するためには、ステークホルダーの真のニーズを発見する必要があり。「要求」だけでなく価値の源泉とも言うべき「ニーズ」に焦点を拡大した。

(3)ビジネス価値を発揮するためにはソリューション構築だけでなく、価値を発揮するチェンジ(変革/改革)が不可欠である。そのチェンジに責任を持つこともビジネスアナリシスの極めて重要な役割である、そんなチェンジを扱う知識体系に変身。

(4)ITソリューションに限らない専門領域(ビジネス・プロセス、ビジネス・アーキテクチャ、ビジネス・インテリジェンス)への拡大。


 新バージョンでのビジネスアナリシスの新しい定義は以下のとおりである。

・ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにおけるチェンジを引き起こすことを可能にする専門活動。

・ビジネスアナリシスは様々なイニシアチブで、エンタープライズのすべてのレベル、そして多様なパースペクティブ(専門視点:IT、ビジネス・アーキテクチャ、ビジネス・プロセス、ビジネス・インテリジェンス、アジャイル)において実践される。

・ビジネスアナリシスはプロジェクトだけでなく、エンタープライズでの改革や継続的改善によっても生じる。ビジネスアナリシスはトップレベルの戦略から非常に小さな変更まで、エンタープライズのあらゆるレベルで実践できる。また、エンタープライズの現状を理解し、かつエンタープライズの将来の状態を定義するために行なうこともできる。


 V3の新しい知識エリアは、以下のようにV2から大幅に見直されているので注意が必要である。

【ビジネスアナリシスの計画とモニタリング】
ビジネスアナリシスのアプローチおよびの活動の定義について記述する。知識エリアの位置づけに大きな変更はない。

【引き出しとコラボレーション】
価値の源泉となるニーズ(アイデア)の創出から、要求の引き出しに関するタスクと、ステークホルダーのコラボレーションやコミュニケーションに関するタスクを扱う。

【要求のライフサイクル・マネジメント】
要求には独自のライフサイクルがあり、要求管理は継続的なアクティビティであることを強調するため、知識エリアの名称が「要求のライフサイクル・マネジメント」に変更された。

【戦略アナリシス】
エンタープライズの現状(AsIs)から将来の望ましい状態(Tobe)に至るチェンジに関する戦略を定義する。V2では単一のビジネス・ニーズに焦点があてられていたが、V3ではエンタープライズ全体(組織全体)にまで拡張された。

【要求アナリシスとデザイン定義】
ステークホルダーのニーズをブレークダウンし、ソリューション選択肢を推奨する。潜在的なビジネス価値を最大化するようにソリューションを定義する。

【ソリューション評価】
実装されたソリューションにより実現されたビジネス価値を最大化する。ソリューションの運用中に継続的に行う活動で、ビジネス価値の実現に責任を持つための活動である。

 知識エリアの詳細についてはBABOK V3を参照いただきたい。
 本書を活用することで、企業の経営幹部、戦略企画部門、営業、コンサルタントや情報システム部門などビジネスアナリシスを実践する幅広い人たちにとってステークホルダーのニーズに満足を与える価値提供のための一助になることを確信している。

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