人材育成コラム
リレーコラム
2016/02/23 (第71回)
“IoT実現元年”に提言したい5つのキーワード
ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG 委員
シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス シニアパートナー
八子 知礼
2015年中はIoT(モノのインターネット)という文字をメディア上で見ない日がないほどIoTで満ちあふれた年でした。ただし、ほとんどの企業はまだ情報収集であったり、構想・検討をしている段階で、実際に実装・構築して効果を獲得している企業はあまり多くはありません。
2016年はいよいよそれが実現し始める、構築し始める“IoT実現元年”になる実感があります。海外や他社の取り組み事例や状況について情報収集してやり方や導入状況の様子を見て勉強するのみならず、いよいよ自社オリジナルの“モノのインターネット”の形が問われ始めるのです。
IoTは、モノをインターネットにつなげることでデータをうまく活用し、新たなイノベーションを生み出そうとするコンセプト・手段ですが、モノだけではかなり狭いビジネスにしかなり得ません。シスコではこれをIoE(Internet of Everything)という名称で少し拡張して捉え、モノのみならずそこから収集できるデータ同士もつなげ、データを現場でリアルタイム活用できるようにプロセスもつなげて自動化し、私たち人間がこのようなネットワーク化された世界にちゃんとついていけるように人もつなげていくこと、すなわちすべてをつなげていくことを提唱しています。
ポイントはこれを自社内だけで実現するのではなく、企業をまたいだ複数企業間で実現することまで想定しなければならないことです。これらを通じて、自社だけでは達成できない“企業活動全体のデジタル化(デジタライゼーション)”への変革へとつなげていくわけです。
日本のIoT市場が今年、サービスを実現していくために、「決める」を意味する頭文字からなる5つのキーワードを提唱しています。
一つ目は「Decide(決める)」です。データを活用するなら早く意思決定して早く着手することです。昨年対比などの経年比較、他社との比較など時系列分析しようとすると、先にデータをため始めなければ実現できません。なによりもデータは一朝一夕ですぐにはたまりません。早期に着手すればたまったデータがようやく分析や比較の対象として活用できるわけです。
二つ目は「Collaboration(協業)」です。自社だけで実現できるIoTは極めて小さなものです。自社にない技術やリソースを求めて競争力ある他社との協業で大きな座組みを形成し、包括的な取り組みを目指しましょう。もちろん、1社で取り組むよりも複合度もすり合わせも必要になりますが、実現できるビジネスの規模が大きくなりますし、なによりもお客様はそのトータルなソリューションを求めています。センサやデバイスのみ、アプリケーションのみでは実現できないのでお客様は常に困っています。それを他社との協業で解決するのがコラボレーションの考え方です。
三つ目は「Innovation(イノベーション)」です。IoTの真髄は同じことを生産性高く実現することではなく、ビジネスモデルのイノベーションです。生産性だけでは、かつての業務改善や生産性改善と同じになってしまいます。今までに実現できていないビジネスモデルを自社の強みを活かしてどう作るかがポイントとなってきます。一つの考え方としては既存の事業ドメインを超えた顧客・商材、とくにデータを売る、ノウハウを売るところまでを視野に入れて検討していただきたいと思います。
四つ目は「Dream(夢のあるサービス)」です。これまで分離してきたITとOT(Operational Technology:現場の操業技術)がデータによって融合することで、需要と供給の間で発生していた機会損失を埋める、日本ならではの夢のある“おもてなしサービス”が実現できるはずです。これはなかなか海外企業にはマネができない領域です。このきめ細やかな“すきまサービス”こそ、日本が今後海外に輸出できる可能性のある領域だと考えられます。
最後は「EcoSystem(ビジネスエコシステム)」です。複数社で共通のビジネスアーキテクチャやデータプラットフォームを共有し、コストが逓増することなく自律的にスケール/発展していくビジネスエコシステム形成をビジネスの立ち上げ段階から意識することです。各社が固有基盤を立ち上げるのではなく、競争力ある共通の基盤形成に協力して取り組み、様々なサービスをその上に構築して顧客を誘引していくことでエコシステムは自立的に発展していきます。
このような5つのキーワードで表現できる考え方を通じてIoTへの取り組みが社会全体に広がれば、“デジタルネイション”の実現も視野に入ってくると考えられます。2020年のオリンピックイヤーに、海外から来た大勢の旅行者たちがガッカリしないような、期待に応えられるような夢のあるおもてなしサービスをIoTへの取り組みで実現させたいものだと切に望みます。そのためにも、これらの考え方を企業が備えるべきスキルとして整備しておくことが必要だとあらためて認識する日々です。
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