人材育成コラム
リレーコラム
2016/12/21 (第80回)
人事業務におけるAI活用
ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG主査
NTTPCコミュニケーションズ 営業本部
中山 幹公
あまり詳細は語れないが、先日、ある社内スタッフの面談を行い、新たに勤務を開始してもらった。面談の時は非常に元気でハキハキとして、営業向きな活発な若者という印象だったため私も期待を持って太鼓判を押したのだが、勤務2~3日で、体調不良や、怪我、さらには親族の不幸など様々な理由で休みがちとなり、結果、そのまま出社することなく、退職することとなった。
業務の内容は事前に十分説明しているし、特に職場に問題を抱えているわけでもなく、過度な負荷がかかっているということもない。もちろん、本人の心の中まではわからないので、何かの不満や事前に持っていたイメージとのギャップなどがあったのかもしれない。
この経緯を踏まえ、今後職場で改善すべき部分もいろいろあるかもしれないが、いまさらながら私が思ったのは、「書類や面談だけで人を判断するのは本当に難しいなあ」ということだ。もちろん、私自身、“人を見る目”をもっと養うべきであり、まだまだ人間的な研鑽を積まねばならないというのはあるのだが、書類選考や短時間の面談では人物を判断するのはなかなか困難だというのもこれまた事実であろう。
社内の昇進や人事異動等についても、最近は面談を重視しているところも多いと聞く。特に大企業においては、日ごろの業務評価の結果、各組織からの候補者が複数選出され、その中からさらに選抜するとなると、一律な横並びの比較がなかなか難しく、結果人事部門等フラットな立場が面談を実施し、公平に評価を行うということになる。
フラットな面談と言っても、どうしても社内であれば単なるイメージや噂レベルの情報をもとにした先入観も入ってくるし、旧知の仲であれば無意識に(もしくは意識的にも)好意的な評価をしてしまったり、公平な評価というのは難しいものである。
さらには、昇進面談に備え、本人の意思とは別に職場の上司総出で面談訓練をやったり、社内でロビー活動のようなことを展開したり、または妙な組織間のバランス感覚が働いてそれに流されてしまったり……というのもありがちな話だろう。
もっと言えば、飲み会の席でお酒の勢いで上司に軽い気持ちでしゃべった言葉が独り歩きして、いつのまにか人事が決まってしまった……なんてこともドラマの世界だけではないだろう。
考えてみると、業務の様々な側面でデジタル化やオートメーションが進む中、もっともアナログな仕事が残っているのが、人事や評価の世界だと言えるかもしれない。
そのような世界を改革する力となり得るのではと注目されているのが、「HRテック」という概念である。金融をIT技術を融合した「フィンテック」、教育とIT技術を融合した「エドテック」は聞いたことがある方も多いだろうがそれに続く新たな成長領域を表す言葉として使われ始めている。
つまり、クラウド/ビッグデータ/AI等の最先端IT技術により、評価/人事/採用/育成等の業務を行う手法のことである。HRテックにもいろいろあり、これまでも、クラウド等のICTを活用した様々な人事関連業務支援のためのICT製品やサービス等は多々存在する。
お手軽なところでは、勤怠管理のソフトウェアや、eラーニングのツール等である。iSRFで展開しているスキル調査も、HRテックのひとつと言ってもいいだろう。HRテックの中で特にいま注目されているのは人事業務におけるAIやディープラーニングの活用である。
AIを活用すれば、上述したような様々な曖昧さを内包したこれまでの不透明な判断が一掃され、デジタルデータにより見える化された明確で納得感のある判断が可能になるのではないかと期待されているのだ。すでにこの分野でもいくつかの先端企業から取組や製品が発表されている。
人事業務におけるAI活用は時期尚早と感じる方も多いだろうが、プロ野球のチームで、選手の様々な実績データから、最適な起用を導き出すシステムは実際に導入されており、イメージがつきやすいのではないか。野球選手を自社の社員に替えてイメージすれば、実は非常に合理的なものであると思えるのではないだろうか。
AI活用の第一歩は、社員の様々な業務履歴、過去の評価(誰が評価したのかも含め)、人物特性等をデジタルデータ化するところからである。まずは自社の上記のような様々な履歴情報がデジタルデータとして蓄積されているのかどうかを確認してみてほしい。もし十分でない場合は、AI活用より前にデジタル化に取り組む必要があるだろう。
人事業務にAIを活用すると言っても、すべての判断を人工知能が行うわけではもちろんない。当面は、意思決定の支援を行ってくれると解釈するのがよいだろう。
いずれにせよ、AIによる人事業務は、遅かれ早かれまず間違いなく広がっていくと筆者は思っている。来たるべき流れに備え、まずは自社がどこまでHRテックに対応できているのかを棚卸してみてはいかがだろうか。
世の中がもっと進むと、人工知能を擁したロボットが人事部長の職に就くかも等と考えるとぞっとする人もいるかもしれないが、いまの人事部長との二択で社員にアンケートを取ってみると、意外とロボットの方が人気を集めたりするかもしれませんよ(笑)。
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