人材育成コラム
リレーコラム
2017/09/20 (第88回)
人財育成サービス分野で感じる風
ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社日立インフォメーションアカデミー 取締役社長&学院長
石川 拓夫
社長に就任してから5カ月が経った。今までは人や組織の課題に対して解決策を立案し、経営にはかり、実行するような業務の経歴が長かったので、事業全体をふかんして、経営そのものを毎日考えるような仕事は慣れていない。ストレスではないが、勘所が異なるミッションはなかなかに骨が折れる。経営者候補生は、早くから関連会社などの経営を経験させるべきとのアドバイスは、伝説のコンサルタントである三枝氏の言葉だが、今更ながら痛いほど感じている。ただよりどころがあるとすれば、人事、特に教育の分野に長く身を置いていたことだろう。
さて今回は、人財育成サービス分野で今感じている「風」について少し書こうと思う。あくまで個人的な見解だが、読者の方に少しでもお役に立てる情報であればと思う。すでに当たり前だと思われる方は読み飛ばしていただきたい。「へえ、そうなんだ」と思う人に、参考になればと思う。
1.事業×ITの風
かなり前から模索の時代が始まっていたが、教育ニーズの高まりから見て、本格的だなと感じる。例えば、製造業の設計者や開発者にITのスキルをある程度身に付けさせようという動き。日立ではOT×ITの動きである。(これは他業界でも同じだと思う)
2つの動きがある。1つはあくまで本業が主で、ITは目利きができる程度のふかん力や洞察力を養いたいという志向。どこのビジネスパートナーと組んで、どのようなITを活用し、協創・協業して新しいソリューションを生み出すのが最適かを意思決定できるレベル。この場合、ITだけではなく、社会・市場動向やデザイン思考など協創に必要な要素も含まれてくる。OT側における、SoE時代の変化の方向性だと思う。
もう1つは、OTとITがIoT時代に急接近しているので、全員ではないにしろITをある程度がっつりやらせたいという志向。いずれもシステムサービスの分野とは異なり、環境も共通用語も異なるかもしれない分野のエンジニアに、ITの何をどのように教育すればよいのか、しばらく模索が続く。
一方でIT側にも同様に、OTに関してある程度のスキルを身に付けさせようというニーズも高い。IoT時代に共通の言葉や認識で協創をする必要がある。特にシステムサービス分野のエンジニアは、今まで「谷の向こう側の話」と割り切っていた分野が他人事ではなくなりつつあるようだ。このような新しいニーズに人財育成サービスベンダーとしてきちんと対応する必要がある。
2.イノベーションの風
イノベーション研修に関しては、以前コラムにも書いたが、IT側だけではなく、IT以外の業態にも必要とされ始めている。
先般、当社が担当したある会社の新人教育の取り組みを聴講してきたが、先入観が少なく、自己規制の必要性がまだ少ない新人の柔軟な発想は、稚拙なビジネスモデルであるにもかかわらず幹部を驚かせていた。このようにイノベーションというよりは新しい価値創造の作法を早い時期から体感させることは、これからの時代に必要なことなのだとあらためて感じた。これが実業にすぐにどう生きるかではなく、このような作法を教え、支援する姿勢こそがいずれ事業の変革を推進する力になるのではと思う。
主催者の幹部の方からは、時間もコストもかかり、ややもすると抵抗勢力となるかもしれない層に対しては別途考えるとして、まずは新人からと伺った。抵抗勢力といわれた聴講者も多くいて、結構な刺激を受けていた様子。急がば回れかもしれない。
3.データアナリティクスの風
今、グループ内外でニーズを特に強く感じられるのが、データアナリティクス分野である。あらゆる立場の人に必要なセンスやスキルだと思われる。立場によってレベル感は異なるが、データを分析して利活用しようとする志向が少しずつ太い流れになりつつあるように思われる。
例えば、縁遠いと思われがちな人事総務などの分野においてもデータ分析からひもといた施策提言がこれからは当たり前になるだろう。また業務革新やコスト削減にも的確な解を提供してくれる可能性がある。分析の基礎を学ぶだけで、既存の表計算ソフトでもかなりのことがやれると聞いた。上級の分野では、データ分析、データ利活用から新事業を発案することも求められるだろう。先行事例が出れば出るほどその有効性が認識されていくに違いない。
このクラスではデータ分析だけでなく、データ利活用が重要である。クレンジングし、分析し、可視化し、それを価値創造に結び付けるところまで念頭に置く必要があろう。SoEに求められる「データ×IT」である。
このほかセキュリティ分野やAI分野など、ほかにもすでに痛いほど感じている風もあるが、それはまたの機会に。
最後に一言。企画を長らく担当してきた身として最近感じるのは、教育が経営戦略を実現する重要な手段になりつつあることである。本来はそうであるべきなのだが、実態は経営者のお題目に過ぎず、経営が苦しくなったときには削減の対象になったものである。その悲哀は自分も味わったし、他社の担当者からも今でも聞き及ぶ。
でも教育は、経営戦略と整合性をとって行うことが、いかに効果を生み出すかが理解され始めることにより、必要不可欠な立場を獲得しつつあるように思う。これに気づいた企業は大きな成果を手にするだろう。
特に社会が変わるときには、事業の不連続が起きる。過去の成功体験が無効になるときには、教育を軽視するよりも、より有効な教育の機会や手法、コンテンツや運用方法、学び方などを探すべきなのだと思う。
教育はすでに集合研修やOJTだけではない。いつでもどこでも学びの場である。今まさに戦略的教育に正面から向き合う時代だと思う。
「新事業を創出したい!」
「他社との協創・協業により自社の強みを伸ばしたい!」
「ものからサービスへ事業構造を変えたい!」
「IoT時代に顧客の本当のニーズの変化をフロントに理解させたい!」
「新時代に生き残るために社員に新たなコンピテンシー開発を求めたい!」
「働き方改革の方向性に合致した、有効な学び方や教育手法、コンテンツを見つけたい!」
このような時代の大転換期に、先進的で良質なソリューションサービスを提供できるように努めることがわれわれの社会的責務だと考えている。これは経営課題を一挙に解決できるほど万能ではない。でもお客様に寄り添い、最適なソリューションサービスを提供し続けることが課題解決の道筋を付ける一助になると確信している。
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