人材育成コラム
リレーコラム
2018/1/22 (第92回)
企業人における自己ブランドとは
ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社日立インフォメーションアカデミー 取締役社長&学院長
石川 拓夫
と先般SSUGカンファレンスで明治大学の野田稔先生が講演されていた。企業人において自己ブランドを磨くとはどのようなことだろうか? スキル標準が発表された頃から考えてきているテーマだが、今回あらためて自分なりに考えてみたい。
まずは企業の中で自己ブランド確立の意識のある人が、今周囲にどのくらいいるのだろうか? 社外活動を通じて社外ではよく目にするが、社内では依然としてあまり目立たない。
自己ブランドというと、組織をないがしろにして個人主義に走ると忌み嫌う人もいるだろう。ここで言う自己ブランドとは、お客さまから見れば、所属する企業のブランドの上に成り立つものなので、それを踏み台にして、まったく個人だけのブランドを確立するものではないし、それでは企業人としては意味がない。先述の野田先生も「幸せなキャリアデザインとは、組織の中で適切な立ち位置を取るということ」と、組織の中でのキャリアサバイバルを述べられていた。
しかし、所属する企業のブランドに寄りかかり、それだけで終わっている人が通用する時代は、すでに終わりがきている。なぜならば、すでに年功よりも提供価値を評価する時代に移行しているし、その企業が好きでもいつかは卒業し、その後何年も自己ブランドで働く必要がある人生100年時代になってきているからである。
よってその企業に在籍している間に、その企業のブランドを体現しつつ、自己ブランドを確立し、ブラッシュアップすることが大切だと思う。これを上手に実践しているのが、リクルート社などだと思う。卒業した後も出身企業を否定せず、むしろそのブランドを活用しつつ、自己ブランドで勝負する風土だ。
内向き志向が強く、自己ブランドを意識しなくても、定年まで全うできる可能性があった日本的な企業文化は、すでに懐かしいおとぎばなしになりつつあるのかもしれない。まして定年延長や雇用延長の時代である。自分らしいキャリア人生を歩むためには、価値ある人で居続けなければならない。そのためには自己ブランドを確立し、維持する意識が必要だと思う。潜在的な失業者では居られないのである。
こんな主旨の自己ブランドだが、一般的にはハイパフォーマーを志向し、自己ブランドを確立する方向が王道だと思うが、人の世なのだから、もっと地道な取り組みもあるように思う。
参考にすべきはお客さまの評価である。お客さまの評価は多岐にわたる。ハイパフォーマンスを求める方もいらっしゃれば、傾聴に優れ、よく話を聞いてくれるようなコーチングスタイルに長けたところを評価する方もいらっしゃるだろう。 はたまた引き出しをたくさん持っていてヒントを提供したり、たくさんの人脈を持っていて、いろんな人を紹介したりすることも評価されるだろう。このように自己ブランドは、自分が評価するものではなく周囲やお客さまが評価するものであることも肝に銘じなければならない。
こんなことを考えていると、例えば「あいさつ」などにもいきつく。私は自己ブランドの重要な要素だと思う。きちんとあいさつができない人は個人的には評価できない。まして当社のようなサービス業の身であればなおさらである。個人の全人格的なものに対する一瞬のお客さまの評価が、企業ブランドだけではなく自己ブランドの評価にも結びつく。こんな日常の所作のなかにも、自己ブランドを確立するすべはある。
この観点から言うと、あいさつは「すべきである」と強制するものではないと考える。まして規定で定めるものでは決してなく、あってはいけない。自己ブランド確立に目覚め、それを磨くために、もっと言うと、「企業人の矜持」からごく自然にあいさつができるように心がけたいものである。人間力の一部と捉えれば、これは陳腐化しないポータブルスキルであり、これを鍛えることは豊かなキャリア人生の支えの1つとなることだろう。
今は激動の時代である。企業人には、自分の生き方を白紙委任するような生き方はしてほしくはない。「自分の人生、自分が主役」である。これからはキャリア自律の時代であり、自己ブランドを自らの意思で磨く時代であると思う。
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