人材育成コラム

リレーコラム

2018/8/22 (第99回)

『殺人的な暑さ』に考える、日本企業の新たな課題

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG主査
株式会社NTTPCコミュニケーションズ 営業本部 営業企画部長

中山 幹公

 読者の皆様、まずは残暑お見舞い申し上げます。

(このコラムが掲載される頃には少しは気温も下がり、「残暑」という言葉が似つかわしくなっているといいが・・・)

 今年の夏は例年になく暑く、テレビのニュースなどでも「殺人的な暑さ」という言葉をよく聞くようになった。もしかするとこれは流行語大賞候補だろうか・・・。特に外回りの営業の方は「ご苦労様」などというお気楽な言葉をとっくに通り越して、「命の危険にさらされる」というべき毎日を過ごしている状況だ。営業は足で稼いでナンボという考えもあるが、この夏ばかりはお客様ともWeb会議などのツールを活用したリモートワークで、訪問しないで済ませているという営業もいるだろうし、むしろそれを推奨する世の中的な雰囲気もある。さらにいえば、訪問するとしても社用車やタクシーなどを活用してしのいでいるという方もいるだろう。

 営業社員はそうして多少は猛暑を避ける手段もない訳ではないが、外で仕事をせざるを得ない職種、つまり建設作業員の方や警備員の方、農業従事者の方、重機運転手の方などはそうはいかない。先日、自宅近くの工事現場で脇腹にファンを内蔵した作業服を着た方を見かけたが、あれは効果があるのだろうか・・・。厚生労働省のホームページでは、「職場における熱中症による死傷者数の推移」という統計データを閲覧することができる。

■厚生労働省「職場における熱中症による死傷者数の推移」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11303000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Roudoueiseika/0000195639.pdf

 これによると、昨年2017年の死亡者数は16名、死傷者は528名となっており(あくまでこれは「職場における」であり、熱中症による死亡者数全体ではない)、前年に比べやや増加している。ここ数年で見ると、2010年の数値が明らかに突出しており、死亡者が47名、死傷者は656名となっていてダントツである。

 この年はどういう気候だったのか。気象庁のデータを同庁のホームページで見てみると、東京の日最高気温30℃以上年間日数が71日と観測史上第一位、日最高気温35℃以上年間日数も13日とこちらも観測史上第一位。つまりここ数年ではもっとも暑い夏だったのである。やはり、高気温と熱中症は当然ながら大きな相関関係があるということだ。今年の気象データはどうなるかはまだ分からないが、この年に迫るか、あるいは超えるような結果となるだろう(もしかするとこのコラムが掲載される頃には観測史上最高記録が出ているかもしれない)。となると、業務中の熱中症被害者も例年になく多くなってしまうのは想像に難くない。

 筆者の所属するNTTPCコミュニケーションズでは、屋外で働く方や、長時間運転をする方の健康管理を会社として見守るツールとして「みまもりがじゅ丸」というウェアラブルIoTサービスを提供している。きっとこの暑さの影響は大きいと思うが、最近、引き合いが急増している。これは、労働者の方にリストバンドを装着していただき、それにより心拍数をクラウドへ送信し、会社としてそれを全体把握して深刻な状態の方をいち早く発見したり、体調悪化の傾向を把握したりといったことが可能となるサービスである。

■株式会社エヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズ
みまもりがじゅ丸(R)
https://www.nttpc.co.jp/service/gajumaru/

 引き合いも、様々な業種の企業や団体から寄せられており、多くの現場で熱中症のリスクにさらされている日本企業の現実が浮かび上がるようである。

 このサービスは昨年の夏から提供しているが、最近類似の製品もいくつか出てきているようで、そこからも需要の拡大を感じている。ちなみに、製品それぞれで心拍や体温、血圧、消費カロリーなど様々なデータを取得するものがある。当然多くのデータを取得するといろいろなことが分かるのだが、一方でコストも上がり、装着者の負担にもなる。「みまもりがじゅ丸」は心拍に特化しており、装着者の負担を最小限にしながら、心拍数から様々な個人別の兆候を導き出そうとしているアプローチが特長である。このノウハウは、この分野の最先端の研究者の方々とも連携しながら現在進行形で日々進化している。

 前回のコラムで書いたのだが、日本は労働者人口のジェットコースター的な減少、人件費の大幅な上昇、高齢化の進展などが一気に進み、特に屋外で働くような職種は人手不足と高齢化が進んでいる。これに夏の酷暑が年々激しさを増すという条件も加わり、対策待ったなしという状況だと認識せねばなるまい。

 日本の平均気温は年々上昇傾向にあり、熱中症のリスクはいうまでもなく2010年と今年だけの話ではない。これから継続的に考えていかなければならない企業の課題ともいえる。

 企業の人事育成部門としては、従業員のスキルアップに加え、高齢者の活用とも併せて気候変化に伴う健康管理対策の実施というのも大きな命題になっていくだろう。


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